札幌のラーメンと一口に言っても、モヤシのあおり調理や黄色い縮れ麺に代表される「札幌ラーメン」と、そのスタイルにこだわらない「トレンド系ラーメン」があることは何度も触れて来ました。札幌のラーメンシーンはそれだけバラエティ豊かになっているのです。
一つの例ですが、全国のデパートで開催される北海道物産展では「茶屋」と呼ばれるラーメンが食べられるイートインコーナーが人気のところが多くあります。
物産展に招かれるだけでも「札幌の人気店」「注目店の証」ということになるのですが、札幌の店舗では味噌ラーメンを提供していないお店が呼ばれることも少なくありません。
札幌のお店に求められるのはやはり味噌ラーメン?
デパートのバイヤーさんの思惑や、その出店場所のお客様の意向もあるのでしょう。「お店で味噌ラーメンを提供していないのはわかっていますが、物産展ではぜひ味噌ラーメンも提供して欲しい」という要望も少なくないのが現状です。
それを無茶振りととらえるか、新しいチャレンジができると捉えるかは招聘された店主さんの考え方次第。「提供するorしない」どちらの判断をされても良いと思っています。
何が言いたいのかというと「札幌=味噌ラーメンだけじゃない」という現状に対して「札幌のお店であるなら味噌ラーメンを期待している」という食べ手側の期待、というギャップが存在してるのではないかと思うのです。
札幌ラーメンのスタイルは厳密な定義こそないものの、ある意味では確立されている。そのスタイルから外れると「それは札幌ラーメンではない」ものになってしまうかもしれません。
ですが、スタイルが札幌ラーメン系だろうとトレンド系だろうと「札幌でお店を構える以上は味噌ラーメンにこだわりたい」というお店が登場してきているのもここ最近の注目すべき傾向の気がします。
ということで、今回は「札幌だから味噌ラーメンにこだわった」と感じさせてくれる注目のお店にスポットを当てたいと思います。
麺処 玖(めんどころ きゅう)
札幌のラーメンをほんの20年ほどさかのぼると、魚介の風味のするラーメンはほとんど無かった。
札幌の人気店の主流はそれこそモヤシをあおり調理で作る「札幌ラーメン」のお店か、やや低加水の麺を使った「旭川系」のお店が中心だった。
今のように煮干などの魚介の風味のラーメンが登場するのは2006年~2010年頃になってからだ。
もう30年ぐらい前の話。東京在住時に札幌の友人数人が東京へ遊びに来たことがある。「なんか東京らしいものを食わせてくれ!」という友人の要望で思い浮かんだのが「荻窪のラーメン店巡り」だった。
ラーメン×煮干=魚臭い?先入観を吹き飛ばしてくれたお店
当時は荻窪がラーメンの聖地であり、春木屋や丸福、丸新、丸長などといった常にラーメン雑誌に名前を連ねる人気店がいくつもあった。
そこで食べたのが煮干ベースのラーメン。札幌ラーメンしか食べたことのない友人たちの評価は「こんな魚臭いラーメンはラーメンじゃない!」というものだった。
とにかく、札幌ラーメン、特に札幌味噌ラーメンに慣れ親しんだ人には「煮干」を受け入れない空気があった。今の札幌でも、「煮干ラーメンは煮干ラーメン」「(煮干を使用しない)札幌ラーメンは札幌ラーメン」と別々なカテゴリとして存在している。
要するに「札幌ラーメンには煮干の香りは不要」なのだ!
……だが、「それって先入観と偏見だったわ!」と思い知らされたお店がある。「麺処 玖」というお店である。
店名 | 麺処 玖(めんどころ きゅう) |
所在地 | 札幌市豊平区月寒東5条8-2-8 三上コーポ 1F |
アクセス | 地下鉄東西線「南郷7丁目」駅より徒歩約10分 |
駐車場 | あり(3台/店舗前) |
営業時間 | 火~日曜日11:00~15:00、17:30~21:00 |
定休日 | 月曜日 |
席数 | 12席(カウンター8席) |
(店舗情報の引用元:食べログ)
「麺処 玖」は濃厚味噌ラーメン専門店
こちらが「味噌ラーメン」。ラードで炒められたモヤシが乗る札幌スタイルのラーメンだ。
ちなみに麺は黄色い縮れ麺ではなく、極太の食べ応えのある麺を使用している。これはここの濃厚なスープに合わせてチョイスしたものだろう。札幌スタイルの中太ちぢれ麺だったらちょっとここのスープには負けてしまう気がする。
なので、当然このお店のスープとこの麺の相性は抜群!
ちなみに味噌ラーメンは標準でモヤシが乗るので、それを増量可能。デフォルトでモヤシが乗らないつけ麺などは「無料追加」という扱いになる。別皿での提供もOKと言うのがありがたい。
ほんのりと焦げ目のついたモヤシ。これこれ!茹でたモヤシではなく炒められたモヤシを使うのが札幌ラーメンでは大切なことだよね。
この香ばしさが食欲を刺激する。
スープはとにかく濃厚!塩分濃度が高いという意味ではなく、ベースの動物系素材の旨味がしっかりしているフルボディ濃厚タイプのスープだ。
ややトロミさえ感じる濃厚スープ。これが実に美味いのである。
濃厚味噌ラーメン専門店がつくる「煮干味噌ラーメン」
券売機を見ると「味噌ラーメン」とは別に「煮干味噌ラーメン」というメニューが存在している。
こちらが「煮干味噌ラーメン」。岩海苔や刻み玉ねぎが乗っているのが特徴。モヤシはあえて別皿にしてもらった。
煮干が香る~♪なるほど!この濃厚なベースのスープがあるから、煮干との組み合わせも抜群にイイんだね。
煮干の香りと動物系素材のハーモニー……これを味噌が上手くまとめ上げている。想像以上に美味しいじゃない!
トッピングされているタマネギのアクセント、タマネギと煮干の風味と相性の良さは言うまでもないところ。
口の中がリセットされてまた一口また一口とレンゲが止まらなくなる。
本格的な燻し製法でつくられたチャーシューが絶品!
あと、特筆すべきはチャーシュー!このうっすらと周りが色づいている感じ、これは本格的な「吊るし焼き」などの「肉を焼く(燻す)」工程を経た製法でしか出せない色(*o*)
チャーシューは漢字で書くと「叉焼」という”焼く”の字が入る。だが、日本のラーメン店では「焼かずに」「煮豚」を使うことが多い。もちろんそれ自体は否定しない。「煮る」タイプは肉をしっとり柔らかく仕上げるその持ち味と良さもある。
だが、この「肉自身の油や肉汁で燻す」ことによる、ほのかに香ばしさをまとったチャーシューはまさに絶品!
口に入れた瞬間の風味と、噛みしめた時の濃縮された肉の旨味はこれだけでも食べる価値のある超極上トッピングだ!!
色んなトッピングもどっしりとしたスープが受け止めてくれる
途中でニンニクを加えたり、
一味(辛味スパイス?)などを好みで加えると濃厚スープがさらに引き締まって美味しくなる。
辛味噌や辛煮干味噌などがメニューにあって人気なのも頷ける。これもベースのスープの濃厚さと厚みのある旨味があってこそなんだろうね。
途中の味変はオススメ!ちょっとやそっとの味変で旨味が損なわれることはないので、好みで多少多めにアクセントを加えても大丈夫!
先入観で「札幌味噌ラーメンには煮干の香りは不要」とどこか思っていたけれど、違和感ナシ。むしろきちんと相乗効果が出ていて食べる価値のある組み合わせ!
太麺と煮干が香る濃厚なスープで「つけ麺」が美味しくないはずがない
ついでに書いておく。そもそもがぷりぷり食感の太麺で、この濃厚なスープに煮干が香るとなると……そう!「つけ麺」が相性抜群!これ、極上の味噌つけ麺。
あとは追加トッピングの辛ネギや辛ニラなんかもオススメ。何度も言うけど、この濃厚なスープは色んなアクセントをしっかり受け止めてくれる。
遊び心を持ってアクセントを加えるのも楽しいと思う。
店主さんの手間暇と思いが込められた一杯
札幌には「札幌ラーメン」とそれにこだわらない「トレンド系ラーメン」があってバラエティ豊かになっている、ということは何度も書いている。が、札幌味噌ラーメンに魚介の風味のアクセント、この発想はありそうでなかった。
いや厳密には無かったわけではない。このお店も
- 煮干味噌ラーメンにはデフォルトでモヤシを乗せない
- 麺は黄色い縮れ麺ではなく太いストレート麺を使用
という点では、煮干の香る札幌味噌ラーメンというのとは違うのかもしれない。
だが、炒めたモヤシを使っている点をはじめ随所に「札幌ラーメンリスペクト」も感じる。
この店ならではの濃厚なスープベースを生み出したことで、煮干を受け止めるラーメンスープが完成した。
先に紹介したチャーシューもそうだし、この濃厚な豚骨スープもそうだが、明らかにものすごく手間がかかっているのがわかる。実際、毎晩深夜まで仕込み作業に追われているらしい。
店主さんに「札幌ラーメンを進化させよう」という意識があったかどうかはわからない。だが「少しでも美味しいラーメンを提供したい」という気持ちの伝わるラーメンなのは間違いない。
結果的にそれが札幌ラーメンを進化させたようにも思う。札幌ラーメンファンも煮干系ラーメンファンも一度は味わって欲しいお店だ。
味噌に骨(みそにほね)
「あばれ牛」や「あばれ馬」ってのは聞いたことがあると思うけど「あばれ羊」ってあまり聞かないでしょ?まぁ「羊の皮を被った(着た)狼」って言葉があるぐらい、「大人しい動物」の代名詞みたいなものだからか。
ところがこれを「ラーメンのスープに使おう!」とすると、途端に暴れん坊の顔を出すらしい。
羊の骨から出るその個性的な香りが、素材の持つ旨さを塗りつぶしてしまうというか……強すぎる個性がまさに「暴れん坊」のようなのである。
さて、そんな羊の骨を使ったラーメンに果敢にチャレンジしたお店が登場した。
2024年2月にオープンしたばかりのお店「薄野 味噌に骨」である。
店名 | 味噌に骨(みそにほね) |
所在地 | 札幌市中央区南6条西3-6-24 第2桂和ビル 1F |
アクセス | 地下鉄東豊線「豊水すすきの」駅から188m |
駐車場 | なし |
営業時間 | SNSにて詳細をご確認下さい。 |
定休日 | 不定休 |
席数 | 8席 |
(店舗情報の引用元:食べログ)
スープに使われている羊骨は100%北海道産
「味噌に骨」という店名にしている通り「骨」にはこだわりがある!「羊骨」をメインの一つとして使用しているのだが、その骨の由来からしてスゴイ。
お店の向いにある系列店「炭火兜ひつじ」で使われている羊骨を使用しているのだ。
「札幌に行ったら食べたい料理」の常に上位に位置する「ジンギスカン」。それゆえに知らない人が意外と多いようだが、北海道内で食べられるジンギスカンの多くはオーストラリアやニュージーランドなどから輸入されているお肉。
北海道産の羊肉は、国内でわずか1%しか流通していない超希少価値がある肉なんです!
その貴重な北海道産の羊を提携牧場から仕入れて使っているお店が「炭火兜ひつじ」!そりゃ骨だって美味しいに決まっている!
とはいえ、前述の通りラーメンスープにすると「暴れ羊」が顔を出すので、味作りには苦労をされたことと思う。
メニュー筆頭の「薄野 特濃味噌」を頼んでみた
ビジュアルが美しいね!ゴロンとのったニンニクもインパクトがある。
さてさて、いよいよそのスープであるが……旨味が濃ゆい!たしかに羊肉の個性的な香りはするのであるが、決して嫌な風味ではない。
使用されている骨は羊の他に鶏・豚・牛の4種類とのこと。4つの火床をフルに活用してそれらの骨を炊き合わせることでこの店のスープは出来上がっている。
羊を中心に他の素材たちが支えるように大きめの音量で奏でていることで、見事に調和されていてるような印象。結果、複数の「骨」を3日間もかけて炊くことで生まれる厚みのあるスープとなっている。
そしてその濃厚なスープにコクのある「鷹栖町の手作り味噌」の旨味が加わることで、今まで味わったことのない個性的な味噌ラーメンスープへと仕上げているのである。濃ゆい大音量ハーモニースープがうまっ!
麺も面白い!道産小麦の平打ち麺は直前に手もみされることでユニークな食感を生み出している。
ぶりんぶりんの弾力ある太めの麺はスープの強さにも全然負けていない。
ごろんと乗っかったニンニクは上富良野町で作られたもの。ねっとりとした食感と濃厚な旨味が印象に残る。
肉の旨味が濃ゆい!「どろ豚」のチャーシュー丼
この日いただいたのは「薄野 特濃味噌」だが、もう一つ「北海道 特濃味噌」と注文を迷った。「北海道特濃味噌」には、どろ豚叉焼と味玉が付いている。
どーん!この日はラッキーなことに「チャーシュー丼」があるということでお肉と卵はこちらで味わうことにした。
京都直送・濃紅たまご!黄身は色だけじゃなく味もメチャ
これを噂のどろ豚に絡めると……至福です。脂身も赤身も味・香りともに一級品!
お米も美唄のゆめぴりかに栗山町のななつぼしをブレンドしたもの
これからも自由な発想でラーメンを開発してほしいお店
こちらのお店、麺やスープはもちろんトッピングやサイドメニューにいたるまでこだわりが強く感じられる。
「伝統的な札幌ラーメン」とは一線を画す味噌ラーメン。モヤシのあおり調理も無ければ黄色い縮れ麺でもない。
だが、これだけ北海道の素材にこだわりぬいた味噌ラーメンだ。ある意味では「究極の北海道味噌ラーメン」とも言えるかもしれない。
ここからは勝手な想像だが……こちらのお店は若いスタッフさんで構成されている。それゆえに昔ながらの札幌味噌ラーメンに固執せず、柔軟で自由な発想が出来たのかもしれない。
「北海道=味噌ラーメンというイメージがある」ということはきちんと理解した上で「それならば北海道らしい味噌ラーメンってナンダ?」とゼロから考え、作り上げたのだろう。
豊富な食材がある北海道。ジンギスカンが名物だが北海道産の羊は希少品種。日本最大の大豆の生産地で美味しい味噌もある。そういう「北海道ならでは&北海道らしさ」というものを考え抜いたのだと思う。
一方、頭で考えるのとは違い、羊骨のようにクセの強い食材も採用した結果「美味しいラーメンに仕上げる」には相当な苦労もされたであろうことは想像に難くない。
提供は1日50杯まで。だが並んででも食べる価値のあるお店だと思う。
MEN-EIJI
札幌にはご当地ラーメンの(トラディショナル)札幌ラーメンと、そのスタイルにこだわらないトレンド系ラーメンが存在し、それらが札幌ラーメンシーンの”バラエティ豊かさ”を生んでいる」
さて、「MEN-EIJI」の古川オーナーが次々と新しい味を生み出し、広いラーメンの世界を我々に教え続けてくれているのは知っていると思う。
まさに札幌のラーメンがバラエティ豊かになった立役者の一人と言っても過言ではない。
そんな古川オーナー。実は全国のご当地ラーメンにも造詣が深く、リスペクトの念を抱いている方だ。
その古川オーナーが札幌ラーメンに対して「昔ながらの札幌ラーメンが減り、その伝統が受け継がれず札幌のご当地ラーメンである札幌ラーメンが危機にあるのでは?」と感じて動き出したのである。
店名 | MEN-EIJI 月寒FACTORY(メン エイジ) |
所在地 | 札幌市豊平区月寒東1条17-5-48 有田不動産ビル 1F |
アクセス | 地下鉄東豊線「福住」駅から1213m |
駐車場 | あり(店前7台、指定場所4台) |
営業時間 | 水曜以外11:00~15:00、17:00~20:00 |
定休日 | 水曜日 |
席数 | 35席(カウンター7席) |
(店舗情報の引用元:食べログ)
札幌ラーメンの伝統を引き継いだ新しいラーメン?
もちろん「純すみ系」「信玄系」「吉山商店」「白樺山荘」「雪風」など、札幌ラーメンを代表する系統は現在もきちんと高く評価され、多くのファンがいるのは間違いない。
ただその一方で、昔ながらの札幌ラーメンの老舗店が少しずつその歴史に幕を下ろしているという事実もある。
常に最先端の新しい味を生み出し続ける古川オーナーだが、その一方では「札幌ラーメンの伝統的な味わいや技法は大切にしたいし継承していかなくてはならない」という使命感もあったのかもしれない。
そんな思いから生み出されたのが「札幌みそクラシック」というメニューだ!2024年3月から「MEN-EIJI 月寒FACTORY(MEN-EIJI月寒中華そば店)」で提供されている。
「野菜を炒めるあおり調理」「黄色い縮れ麺」「スパイシーな味わい」など“受け継ぐべき伝統”と、化学調味料に頼らない旨味の演出など“独自の技術による新しさ”を融合させた一杯。
公式X(旧Twitter)によると「令和版!正統派・札幌みそラーメン」という表現がされていた。期待を胸にいただいた一杯。
結論を先に書くと、「最高!」でした。
札幌ラーメンらしい香ばしさやパンチを持ちながらすっきりとした味わい。昆布と豚骨ベースのスープとのことだが、昆布の旨味がそもそもスゴイ!
いいところなんだけど……ちょっと脱線気味してもいい?(笑)
実は「つけ麺」を注文すると割スープがついてくるのだが、その割スープの昆布の旨味だけでもぶっとぶくらいに美味しい!
素材の選び方と活かし方を知っている人が調理すると、身近な素材もこんなにおいしくなるという良い例かもしれない。
令和版!正統派・札幌みそラーメン「札幌みそクラシック」
話を「札幌みそクラシック」に戻そう!
ベースのスープに合わせる味噌は恵庭市余湖農園の手作り味噌。コクがあって深みがあって、初めての味であるがずっと食べて来た札幌ラーメンの慣れ親しんだ味でもある。
上にふりかけられているのは「バジル」ですね。元々札幌ラーメンは各店オリジナルの「スパイス感」というのがあると思う。あるお店ではほんのちょっと「カレー粉」を使用し、あるお店では「ウスターソース」を隠し味に使ったりもしている。
そしてこの黄色い縮れ麺。元々札幌ラーメンは「黄色い方がより美味しく感じてもらえるから」という理由から、製麺会社があえて着色を行っている。現在はビタミンB2を色付けに使うのが主流のようだ。
で、MEN-EIJIがその色に使ったのが「ターメリック」。
バジルにターメリック?ちょっと驚くような素材選びだが、鼻をくすぐる独特のスパイス感……新しいのに懐かしい!もうね、センスが違うね。
他にもおすすめメニューがたくさん!ちょっとだけご紹介
せっかくだから「MEN-EIJI 月寒FACTORY」で食べられる他のメニューにもさらっとだけ触れておきましょうか。
まずは「肉中華そば」。豚の各部位からとっているという清湯スープ。
クリアな見た目だし、口当たりは確かにあっさり。なんだけど……昨年紹介したマルエーラーメンとも共通する、想像の何倍かの旨味が押し寄せてくる!これは「豚の旨味」に加え、前述の「昆布の旨味」との相乗効果も大きいんでしょうね。
豚清湯スープってこんなに美味しかったっけ?と再認識させられる。
そして言うまでも無いが、チャーシューなど肉の美味しさにかけては元々評価が高いMEN-EIJIグループのラーメン。ここ最近はさらに美味しくなったように感じるんだよね。
麺は大盛りで!肉肉しいつけ麺「肉つけそば」
「肉つけそば」も超オススメ!味の構成要素やベクトルは肉中華そばと同じだけど、麺の美味しさをより味えるメニュー。
この平打ち麺の美しいこと。道産小麦が持つ本来の甘さすら感じる麺は秀逸!
「肉中華そば」にするか「肉つけそば」にするか毎回迷うところ!あ、麺は並か大盛を選べるのですが、こっちは「大盛」をチョイスするのは全く迷わないところです(笑)
家系豚骨ラーメンはライスをかっこむ手がとまらない
家系豚骨ラーメンの「MEN-EIJI E・A・K」もファンが多い。濃厚なのにクセの無い豚骨スープの美味しさは圧巻!一度は食べてもらいたいメニュー。
「MEN-EIJI 月寒FACTORY」の他のメニューの話題はこれぐらいにしておこう。キリがない……。
ラーメン好きの若者に食べてほしい一杯
話を「札幌みそクラシック」に戻そう。(2回目)
古川オーナーが考えたのは「札幌には伝統的な味噌ラーメンがある。その技法は守ったうえで新しい味を作りたい」ということだったのであろう。
モヤシをラードで炒め、黄色い縮れ麺を使うというが自ら課したルールであり、先人たちに対するリスペクトなのだろう。
その上で「そのレギュレーションの中でだっていくらでも美味しくすることはできるはず」という考えで作り上げたのが、今回の「札幌みそクラシック」なのだと思う。
また「今の若い人たちは昔ながらの札幌味噌ラーメンから離れているのでは?」という懸念があったのかもしれない。
バジルの香り、パンチがありながら無化調ゆえの優しい口当たり、ターメリックを使った黄色い色彩とかすかに感じる風味。今の若い人たちに支持されるツボを押さえている気がする。
札幌ラーメンの伝統を大切にしながら、未来も見据えた「札幌ラーメン」古川流の解釈と答えがこの一杯の中にはあるように思う。
札幌ラーメン好きも札幌ラーメンよりもトレンド系ラーメン好きな若者にも、ぜひ一度は食べてもらいたいメニューだ。
【お知らせ】新店舗がオープンします!
さて、最後におまけとしてご紹介したいお店があります。多分に個人的な宣伝も入ってますがお許しください(笑)
新しいものを!変わったものを!という風潮にジレンマ
私は「札幌ラーメンコンシェルジュ」を名乗っている関係上、本コラムに限らずテレビなどの取材協力や企画のお手伝いをすることも少なくありません。そして、そういったメディアの多くは「普通の札幌ラーメンじゃなく変わったものや新しいものを紹介したい」という要望が多いのも事実です。
人気がありながらメディアに登場しない老舗ラーメン店は沢山あると思いますが、その背景の一つに「あまりにも身近にありすぎる」「あって当たり前」ということがあるように思います。
ところが、ここ数年、いや10年程前から、人気がありながらひっそりと消えていく老舗ラーメン店をいくつも見てきました。
「そう言えば普通に美味しい札幌味噌ラーメンのお店って減ったんじゃない?」そんな声も良く耳にしました。
もちろん地元民にも観光客にも愛される札幌ラーメンを代表するお店だっていくつもあります。ですが、その一方で「スポットこそ当たらないけど近所のラーメン屋の○○が好きなんだ」という身近な札幌ラーメンのお店が減っているのもこれまた事実。
一方でメディアには「新しいお店や変わったお店を紹介」し、もう一方では「身近な札幌ラーメンのお店が消えることを憂いている」。そんなジレンマがありました。
目指しているのは、普通の“極上”
そこで「ごく普通の地元の人たちが慣れ親しんだ札幌ラーメンのお店を作りたい」とオープンさせたのが「札幌ラーメン 直伝屋」なのです。大げさに言うと「札幌ラーメンの伝統を守りたい」という気持ちもありました。
2015年にすすきのにオープン。2019年には現在のマルヤマクラスへと移転しました。
直伝屋では誰が食べても「あー……札幌ラーメンってコレコレ」という定番の味を目指してきました。例えていうなら「普通の“極上”」を目指しているラーメン店です。
もちろん、あおり調理を少し長めにして香ばしさを少し強めに出しているとか、オリジナリティは出そうとしていますが、あくまでも目指しているのは「普通の札幌ラーメンの”極上”」だったりします。
直伝屋の2号店「直伝丸」は2024年6月オープン予定
そして!実はこの度、直伝屋の2号店を恵庭市恵み野にオープンさせることになったのです。
店名は、直伝屋のDNAを受け継ぎ、“新しい地への船出”という願いも込め「ラーメン直伝丸」と名付けました!
札幌ラーメンの伝統的な技法である「あおり調理」にこだわり、誰もが安心できる慣れ親しんだ美味しさ。その中にちょっとだけ光る個性。皆さんに愛されるお店にできたらいいなと思っています。
直伝屋では「さがみ屋製麺」を使用し、直伝丸では「西山製麺」の道産小麦の麺を使用する予定です。さがみ屋のハリのある麺か、西山製麺の少しノスタルジック感のある麺か?どちらも「札幌らしい」美味しい麺を選んでいますが、どちらが好みかは皆さんの判断にゆだねたいと思います。
その他チャーシューやネギなども直伝屋と直伝丸ではちょっとした違いがあります。こちらも皆さんの舌でぜひ確かめに来ていただければと思います。
さいごに
さて、札幌ラーメン2024第3回はいかがでしたでしょうか?
とてもバラエティ豊かな札幌のラーメン。ところが、好む好まざるにかかわらず、札幌=味噌というイメージが強いのは今現在も「事実」なのだと思います。
味噌ラーメンを提供していない、とある店主さんの話。「来店したお客様が“味噌は無いの?”と言ってそのまま帰られて悲しかった」と。
これと似た話をされていたのは一人や二人の店主さんではありません。
もしかすると札幌を拠点としてお店を運営する以上は「宿命」と言っても良いのかもしれませんね。
今回は、そんな期待に応えるべく、それぞれの店主さんがそれぞれの解釈やアプローチで「札幌で味噌ラーメンを自分が作るなら」と考え、表現している店にスポットを当ててみました。
ぜひ、それぞれの個性がドンブリに詰まっている味噌ラーメンを味わってみて欲しいと思うのでした。