二世店主に注目!先代より受け継がれるバトン|札幌ラーメン最新事情2023 最終回

札幌のラーメンがバラエティ豊かと呼ばれるようになったのはいつ頃からでしょう。

少なくとも2000年前半までは圧倒的に味噌ラーメンに代表される「札幌ラーメン」と旭川から進出してきた「旭川ラーメン」の2つの系統がシェアの多くを占めていたように思います。

大石さん
当時のラーメン本を読み返すと札幌系&旭川系一色と言っても良い程で現在の「バラエティ豊かさ」とは程遠い印象を受けます。

ところが2005年~2008年頃に登場したラーメン店が、札幌のラーメンシーンに変化をもたらします。

■目次

札幌ラーメンスタイルにこだわらない店の台頭

2005年~2008年にかけて登場したお店

このわずか数年間に所謂札幌ラーメンスタイルにこだわらない味でチャレンジするお店が急激に登場した時期のように思います。

オープン月 店名
2005年5月 麺処まるは
2005年10月 山嵐本店(2008年3月現在の店舗に移転)
2006年5月 凡の風
2006年8月 あらとん本店
2006年11月 麺eiji
2007年6月 ラーメン札幌一粒庵(すすきのからの移転)
2007年11月 豚ソバ Fuji屋(2012年中央区に移転)
2008年6月 侘助
2008年7月 つけめんShin.
2008年9月 けせらせら
2008年10月 麺屋菜々兵衛

上記以外にも後に名店となるお店がいくつも登場しています。当時、変革期にあった札幌ラーメンシーンの変化。メディアでも少しずつそういう従来とは違うラーメンを取り上げ始めていました。

慣れ親しんだ札幌ラーメンとは違うスタイルの提供に「若き店主の挑戦」などと冠をつけて紹介していたところもありました。

しかし、その言葉の裏にはどこか「ユニークだけど札幌で流行るのは難しいのでは?」という「無謀な挑戦」とのニュアンスも含まれていたように感じることもありました。

大石さん
もしかすると私自身の思い込みや偏見があったのかもしれませんが

ちょうどその頃、ある東京のラーメン友達からは「札幌のラーメンが美味しいって言われていた時期もあったよね」と過去形で屈辱的に語られたりもしました。

二世がつなぐ札幌ラーメンのバトン

そこに登場した新しい潮流。新しい味がどんどん登場し、それと共に再びご当地ラーメンである札幌スタイルのラーメンにもスポットが当たる、ワクワクするようなエキサイティングな時代だったように思います。

さて、時代は流れ「若き店主達」と呼ばれた方々は今や皆「大御所」と呼ばれるようになりました。

そして今、その店主さん達のお子さんが主役となって札幌のラーメンをさらに盛り上げようという流れができています。これがまた実にワクワクするようなラーメンを作っているのです。

ということで、最終回は大御所ラーメン店主さんのジュニア世代の活躍するお店にスポットを当ててみたいと思います。

麺処まるはBEYOND

二世が作るラーメンと言われて真っ先に思い浮かぶのがこの人。つい先日の2023年12月15日で10周年を迎えた「麺処まるはBEYOND」の店主・長谷川凌真氏だ。

それにはまず、「麺処まるはBEYOND」のルーツとなる「麺処まるは」の店主であり、凌真氏の父でもある長谷川朝也氏のお話から紹介しなくてはならない。

大石さん
かなり個人的な思い入れもあるため、長くなるかもしれないがお許しいただきたい!
店名 麺処まるはBEYOND
所在地 札幌市豊平区平岸3条13-7-7 第3アメニティ藤川 101
アクセス 地下鉄南北線「南平岸」駅より徒歩1分
駐車場 あり(2台)
営業時間 [月〜土]11:00〜14:30(L.O) 18:00〜22:30(L.O.) [日・祝]11:00~14:30(L.O.)18:00~20:30(L.O.) 日曜営業
定休日 火曜、第3水曜定休
席数 19席(カウンター5席)

(店舗情報の引用元:食べログ

オープン当時、札幌では「異質」と評されたメニューへ次々に挑戦

「麺処まるは」が札幌市西岡にオープンしたのは2005年5月。ホテルの料理長などで料理経験はあるものの長谷川朝也氏はラーメンに関して特別な修行経験も無く独学でラーメンを作ってきたと聞く。

札幌スタイルの味噌ラーメンはとても美味しく一番人気だった。ただ、その中に当時の札幌としてはちょっと異彩を放つメニューがあった。

「麺処まるは」オープン当初のメニュー表

それは「中華そば」。所謂魚介の香る東京スタイルのラーメンだ。鶏や豚の旨味と鰹節の香りがとても美味しいが、札幌市民からは「異彩」というよりむしろ「異質」な存在として受け取られたように思う。

ラーメン評論家の第一人者で「日本一ラーメンを食べた男」大崎裕史氏が札幌に訪れた時に、このラーメンを食べて次のように評したそう。

「ラーメンとしては非常に完成度が高くてとても美味しい。でも、全国のご当地ラーメンがあるところで新しい味が受け入れられないのをたくさん見てきているので、札幌でもこの味が受け入れられるのか?心配です。」

大石さん
その時のエピソードを先代は自虐的に「札幌では売れないって言われましたわ」と笑いながら話していた
中華そば

▲「中華そば」は当時の札幌では珍しく魚介の香りの強いスープだった

その後2007年春に札幌ではあまり市民権を得ていなかった「つけ麺」を提供することになる。

つけ麺

▲浅草開化楼の麺を使用した「つけ麺」は札幌ではもちろんここだけだった

それも東京の老舗製麺屋である「浅草開化楼」の麺を取り寄せて、魚介風味の効いた本格的なつけ麺を出してきた。

大石さん
これには驚いた。私は当時は東京と札幌を行き来していて、つけ麺が大好きだったから、札幌に本格的なつけ麺が無いことに不満を感じていた。なんせ「魚介風味のラーメンは流行らない」とさえ言われている時代だった

つけ麺はその魚介の風味だけじゃなく存在そのものを「邪道」と評する人も少なくなかった。「麺とスープを分ける意味がわからない」「麺が冷たくてスープが温かいなんて中途半端」などと散々な評価をする人もいたらしい。

つけ麺のメニュー案内

ところが、これが大きな波紋を呼ぶ。市内人気店のラーメン店主さん達がこぞって食べに来たり、製麺メーカーさんのお偉いさんが食べに来たりと、札幌のラーメン業界がちょっとざわついた。

現在の札幌ラーメンがバラエティ豊かになったのは、このお店の存在がひとつのきっかけになったのは間違いないと思う。

さらなる挑戦。「麺処まるは健松丸」のドロドロ豚骨スープ

その後2011年4月にすすきのに「麺処まるは健松丸」をオープンさせることとなるのだが、長谷川朝也氏はここでもまた驚くようなラーメンを提供する。

濃厚豚骨ラーメン

▲2011年4月にオープンした「麺処まるは健松丸」の濃厚豚骨ラーメン

いわゆる豚骨ラーメンなのであるが、それが「これでもかっ!」ってくらいに濃度を上げたスープのラーメンを出してきた。

スープ

▲ドロドロとしたとろみのあるスープには皆、度肝を抜かれた

またしても「これは札幌では流行らない」という評価が最初はあちこちで持ち上がった。

大石さん
このころ、今回のテーマの主役である息子さんの長谷川凌真氏がお店の手伝いに入るのであるが、彼の話はもう少し後で。先代の話をもう少し続けよう

捨てるスープに涙を流す二代目に亡き先代は何を思ったか

「麺処まるは健松丸」の外観

「麺処まるは健松丸」のオープン直前に先代・長谷川朝也氏に病気が見つかった。本当に残念であるが、2年ほど病と戦った末、2013年に鬼籍に入られてしまった。

先代との話は尽きないのであるが、一つだけ最後にエピソードを書いておきたい。先代への何度目かのお見舞いのときにちょうどお会いした奥様がこんな話をしていた。

「息子の凌真がお店で働いてくれるのは嬉しいけど、毎日のように残るドロドロのスープを見て涙を流しているのよ。人気のあった前の店と同じメニューでやってくれたらよかったのに」

それを聞いた直後の先代が、ちょっとバツの悪そうな顔をしながらも見せた表情が忘れられない。

そう。無意識だったかもしれないのだが「ニヤリ」と笑ったのだ。あたかも「捨てるスープを見て涙を流すようになれば息子も一人前だ」と語っているかのように。

先代の故・長谷川朝也氏とのエピソードは尽きないが、この辺にしておこう。

「札幌で魚介系ラーメンは流行らない」
「札幌でつけ麺は受け入れられない」
「濃厚なドロドロスープは札幌の人には合わない」

そんな評価を受けながら、自分の信じる「美味しいラーメン」を提供し続けた先代・長谷川朝也氏の功績は大きいと思う。

二世が店名「麺処まるはBEYOND」に込めた決意

さて、麺処まるは創業者の先代・長谷川朝也氏の話が長くなってしまったが、今回の本題の「二世」である長谷川凌真氏の話に移りたいと思う。

息子・凌真氏が本格的にラーメン作りを始めたのは「麺処まるは健松丸」がオープンしてからのこと。父と一緒に働き、父の背中を見て過ごす毎日はおそらく今の彼の原点になっていると思う。

「麺処まるは健松丸」では月替わりで様々なラーメンを提供していた。一言で「月替わり」と書いているが、そのどれもがクオリティが高く、そのペースで作るのは並大抵のことではなかったはずだ。

もしかするとそれは息子にラーメン作りの技術やラーメンの奥深さを伝えようとの思いが先代にあったのかもしれない。とにかく信じられないハイペースで限定メニューは提供され続けた。

次世代あっさり鶏塩麹ラーメン

カップ麺にも採用された「次世代あっさり鶏塩麹ラーメン」。

鶏醤丸

鶏・豚・魚介のトリプルスープのあっさり味「鶏醤丸(けいしょうまる)」。

つけ麺

やりすぎだろう、というぐらい極太麺(一反木綿?いや一反木“麺”か)を乗せたつけ麺。

そんな偉大な先代の背中を見ながら働いてきた凌真氏。先代が亡くなられてから相当な葛藤はあったことと思う。

その中で彼が下した決断は「移転して新しいラーメンを提供する」というものだ。ただ、お店の名前に「まるは」は残したいとの思いもあり、付けた店名が「麺処まるはBEYOND」。

「麺処まるはBEYOND」の外観

▲10年前の2013年12月15日中の島にオープンした麺処まるはBEYOND:創業時は中の島

BEYONDは「超える」とか「凌ぐ・凌駕する」という意味がある。

そう、偉大な父を超えるという意味と、彼自身につけられた「凌真」の一文字からつけた店名。様々な思いが込められた実に素晴らしい名前だと思う。

レガシーとオリジナルが織りなすメニューで評判に

味噌ラーメン

▲「麺処まるはBEYOND」創業時の味噌ラーメン

「麺処まるはBEYOND」のオープン直後の「背脂味噌ラーメン」にはマー油が使われ、

マー油

▲黒い油がマー油

それは先代から引き継がれた特徴的なアクセントで、中毒性の高いものだった。

一方「中華そば」は名前こそ先代の時代からあるメニューだが、完全にオリジナルの清湯系ラーメン。

中華そば醤油

▲「麺処まるはBEYOND」創業時の中華そば醤油。先代の中華そばとは風味が違う

これが実に美味しい。素材の持つ旨味と香りをうまく引き出していて、一口目からホッとするような美味しさがあった。

麺

▲使っているのは「麺処まるは健松丸」時代から付き合いのある京都の老舗製麺所「麺屋棣鄂」の麺

そのしなやかで優しい口当たりもスープとの相性が抜群。そのため「若い店主が新店で提供するレベルではない」とオープン直後から評判になっていた。

焦がしたニンニクの香りで中毒性の高い味噌ラーメン

移転後の「麺処まるはBEYOND」店舗

▲2014年4月に現在の地、南平岸駅前に移転

2021年4月にオープンの地中の島から現在の南平岸駅に移転した「麺処まるはBEYOND」。冒頭にも書いたが、2023年12月15日で10周年を迎えた。

札幌背脂味噌ラーメン

▲現在の「札幌背脂味噌ラーメン」

この10年で変わったのはお店の場所だけじゃない。味ももちろん進化をし続けている。

いや、もしかすると「進化しているところ」と「あえて変えていないところ」があると言った方が正しいのかもしれない。

焦がしニンニクが浮いたスープ

▲強めのあおり調理によりニンニクを焦がし香ばしさを出している。黒い粒々は焦がしニンニク

味噌ラーメンのスープそのものは少しずつ印象が変わっているが「焦がしたニンニクの香りを大切にしている」のは変わらない点のように思う。

「マー油」を使ったり強めにニンニクを炒めたりなど「ニンニクを効果的なアクセントとして使う」点は先代から続く「麺処まるは」の味噌ラーメンの特徴の一つと言ってもいいと思う。

歴代の味噌ラーメン比較

ほんのり感じる焦がしニンニクの独特の香ばしさと苦みのアクセント。「まるは」ならではの香りだし、クセになる。

麺

▲麺も明らかに美味しくなったように感じた

麺について一言でいえば、「より札幌らしくなった」という印象。

大石さん
これ、ホントに「京都」の製麺所が打った麺なの?って二度見ならぬ二度啜り(?)しちゃったよ(笑)
店内にある製麺所の看板

京都の老舗製麺所麺屋「棣鄂」の作る札幌スタイルの縮れ麺は唇を震わせるだけじゃなく札幌っ子のDNAまで一緒に震わせてくれるね!

メンマ

▲食べ終えてからも、いつまでも印象に残るメンマ

この極太メンマ、通称「材木メンマ」もまるはの象徴的なトッピングの一つ。食べ応えがイイだけじゃなく味も抜群。

チャーシュー

▲脂身プルプル赤身ホロホロの角煮は柔らかく、噛むと肉の旨味が中からあふれ出す

そしてチャーシューの代わりに乗っているのがこの角煮。トロトロの食感といい、閉じ込められた肉の旨味といい、麺とスープだけじゃなく、さすが具材も完璧。

二代目オリジナルの中華そば

中華そば醤油

そしてもう一つの代表メニュー「中華そば」。よりクリアになりながら旨味のパワーがアップしている印象。

スープ

▲豚骨清湯が主軸と思しきスープはクリアながら素材の旨味がギュっとつまっている

複雑な素材の組み合わせをバランス良くまとめ、旨味だけ抽出しているのは、10年の経験から来るものなんでしょうね。

麺

▲麺屋棣鄂の麺はしなやかで優しい口当たり。もちろんスープとの相性も抜群

あまりの美味しさに舌も鼻も喜ぶ中華そばだ。

10周年記念イベントの限定メニュー

さて、そんな定番メニューで人々を魅了している「麺処まるはBEYOND」。10周年を記念してイベントメニューが提供された。

10周年記念イベントのメニュー表

先代が営んでいた札幌市西岡の「麺処まるは」時代の「中華そば」を再現したという「10周年記念 淡麗中華蕎麦」と麺処まるは健松丸時代の「超濃厚とんこつラーメン」の2種類だ。

大石さん
札幌市西岡時代の中華そばの再現ですと!!!これは食べないわけにはいかないでしょう^^
淡麗中華蕎麦

▲10周年記念「淡麗中華蕎麦」

一口すすって驚いたね!まさにあの風味と味!

スープ

スープは煮干より鰹節などの節系の香りと旨味が強いのも一つの特徴だと思う。

麺

▲麺は麺屋棣鄂の麺。当時とは製麺会社が違うが印象の似た仕上がりの美味しい麺だった

そして、それらの素材の醸し出す自然な酸味を旨味に昇華させているスープ。まさに札幌市西岡にあった「麺処まるは」時代の特徴そのものだった。

半熟卵

▲絶妙の茹で加減の半熟卵

10周年だから使っている素材の量を大盤振る舞いで当時より多くしたのかもしれないが、音楽で例えるなら西岡時代のそれよりボリュームが大きいというか、要するに全体の旨味が強い印象。

だけどその音圧の大きさ以外は「楽器(素材)の構成要素もハーモニーも当時のまま」だった!

チャーシュー

▲香ばしく炙られたチャーシューは香りまで美味しい

むしろ当時より旨味があふれ、自分の記憶を呼び覚ますには最高の一杯だった。

大石さん
西岡まで夏はスクーターを飛ばし、冬は車を走らせて幾度となく食べに行ったなぁ……通勤経路でも無ければもちろん家の近所でも無いにもかかわらず

先代がカウンター越しに「○○のラーメン食べましたか?相当美味いっすよ!」と笑いながら話しかけていた顔。

「仕込み方をちょっと変えたんすよ!」と自慢げにニヤリと笑った顔。

私が「前回より美味しいです!」と言うと「いやぁまだまだっすよ」と照れた表情。

それでも「いやこっちの方がホントに好きです」と続けると「マジっすか?」といつもの口癖と共に得意げな表情を見せたこと。

先代の声や表情まで色んなことを思い出してしまった。

今回提供してくれた限定の中華蕎麦は誰が食べても美味しいラーメンなのは間違ない。が、やっぱり自分にとっては昔を思い出す特別な一杯だった。

チャーシュー

チャーシューの絶妙な火加減で閉じ込められた肉の美味さは最高だった。

大石さん
トッピングに関してはもしかしたら西岡時代より美味しくなっちゃったかもね(笑)

こんなことを書くと、草葉の陰で先代が苦笑いしているかもしれない。

超濃厚とんこつラーメン

▲超濃厚とんこつラーメン:画像提供knightさん(@knightknight45)

ちなみに「10周年記念 淡麗中華蕎麦」を食べ終えて、もう一度並んで「超濃厚とんこつラーメン」も食べようと思ったのだが、残念ながら仕事の時間が迫っていたため断念。食べた方は口々にその美味しさを称賛していた!

大石さん
絶賛の嵐と聞くとやっぱり食べたかった^^;
行列

▲雪降る極寒の札幌で並んででも食べたい一杯がそこにある

札幌市西岡時代に「札幌で魚介は流行らない」と言われながらも提供し続け、すすきのの「麺処まるは健松丸」では「こんなドロドロスープはウケない」と言われながらも出し続けたあの頃。

そんなことがウソのように、その味を求めてこの日は早朝から多くの人が行列を作っていた。

先代の背中を追いかけながら進化する二世店主

「麺処まるはBEYOND」の建物正面

▲10周年の限定メニュー目当てに押し寄せたラーメン好き達

批判を受けながら提供し続けた先代、そして周年イベントでは毎年必ず超濃厚豚骨スープを提供している息子・凌真氏。そんな親子のバトンも札幌のラーメンシーンが変化してきた一つの要因になっていると思う。

完食の器

▲麺を、スープを啜るたびに先代との思い出が呼び起こされた

時代が変わったら受け入れられたという人もいるかもしれないが、その影には自分の信じる味を提供し続けた人がいた。

札幌のラーメン好きの嗜好が変化して来たのは間違いないが、「好みを根本から変えてやろう」との思いを持ち努力をした人達のおかげだと改めて思う。

札幌西岡時代の「麺処まるは」の中華そば

今回の限定メニューである中華そばの洗練された盛り付けや旨味の強さ、トッピングの美味しさ。もし私が二代目の凌真氏に「先代をBEYONDしたんじゃない?」と投げかけたらどうだろう?

「いやぁまだまだっすよ」とか「マジっすか!」と父と同じような口癖の返答が返ってくる気がする。きっとまだまだ彼の中では「BEYONDしていく」ことを目標としていくのだろう。

新ブランド店の名前は「麺処まるはRISE」

「麺処まるはRISE」のロゴ

ここで、凌真氏のもう一つのブランド「麺処まるはRISE」にも触れておきたいと思う。RISEでは「貝」を主役にしたラーメンが定番メニューとして提供されている。

貝出汁塩

▲「麺処まるはRISE」の貝出汁塩:貝出汁醤油から少し時間を置いてから提供が開始された

貝出汁の定番メニューが人気なのは言うまでもないのであるが、こちらのお店では積極的に限定メニューを提供していることも特筆すべき点だと思う。

月替わりの「マンスリー限定」メニューに加え、「シーズン限定」や店内告知なしの「SNS限定メニュー」など、毎週のように限定メニューが作られるというハイペースでの提供だ。

背脂豚骨塩

▲SNS限定”裏”メニュー「背脂豚骨塩」

これは、毎月のように限定メニューを提供していた先代を上回るハイペースでの提供である。まるでその時の父を「BEYOND」しようとするかのように。

最後に店名の「RISE」の話を書いて終わりにしたいと思う。BEYOND が「超える・凌ぐ」などの意味があり、先代を越える意味と凌真店主の名前の一文字を表していることは書いた通り。

そしてRISE には「夜明け・暁」などの意味がある。こちらも先代の朝也氏の一文字「朝」を意識していると共に、凌真店主の息子さんの「暁」という一文字を意識してつけられたとのこと。

もしかすると、あと20年経てば「三世」の作るラーメンが食べられるかもしれない。

大石さん
流石にそれまで私も食べ歩きを続けているとは思えないが、こうやって世代を超えてバトンがつながるかもしれないと考えるとワクワクが止まらないのである

ということであまりに思い入れが強いことと、先代の「麺処まるは」から紹介を始めたので、ものすごく長くなってしまったがどうか許してほしい。

マルエーラーメン店

札幌で「MEN-EIJI」という名前を知らないラーメンファンはいないであろう。というか「知らない」と言った時点でそれは札幌のラーメンファンではないと言っても過言ではないと思っている。

本店である「HIRAGISHI BASE」をはじめ「EAK」「月寒FACTORY」、オーストラリアには「ZUROZURO RAMEN BAR」といういくつものグループ店舗を展開している札幌を代表するラーメンブランドだ。

今でこそ、その味はもちろん様々な取り組みやチャレンジも高く評価されているが、オープン当初から「高く評価されていたか?」というと実はそうでも無かったらしい。

「麺eiji」の看板

原点となる「麺eiji」が札幌市平岸にオープンしたのは2006年11月。店主・古川氏が様々なラーメン店で経験を積み、満を持して自分のお店をオープン。

「札幌には無い味を!」という思いもあったのだと思うが、濃厚魚介豚骨ラーメンを中心にお店をオープンさせた。

店名 マルエーラーメン店
所在地 札幌市北区北23条西4-2-3 プラザハイツ24 1F
アクセス 地下鉄南北線「北24条」駅から34m
駐車場 あり(2台)
営業時間 11:00〜15:00、17:00〜21:00 日曜営業
定休日 水曜日
席数

(店舗情報の引用元:食べログ

批判的な言葉に負けず繰り返すチャレンジ

当時は札幌ラーメン全盛で魚介系ラーメンはほとんどない時代。先に紹介した「麺処まるは」で中華そばが提供されていたが苦戦していた時代だ。ここ「麺eiji」でも店主・古川氏の期待とは逆にあまり評価されなかったと聞く。

いやそれどころか、「批判的な意見」が少なくなかったらしい。

濃厚魚介豚骨麺のメニュー表

▲「札幌では味わえない」と書いてある通り、濃厚魚介豚骨はまったくメジャーではなかった

「なんで野菜が乗ってない」「なんだこの魚臭いラーメンは?」などなど。書いている私まで心が痛くなる。

濃厚魚介豚骨麺

▲「麺eiji」創業当時の濃厚魚介豚骨麺。すごく美味しいと感じたが札幌ではまだ否定的な声もあった

私はこの頃はまだ東京と札幌を行き来している時代で、個人的な感想だけど客観的な意見を書くと「東京の人気店より美味しい」と思ったのは事実。

その一方で「あまり受け入れられていない」という店主・古川氏の話を聞いて、私は「札幌の食文化は思った以上に閉鎖的なのか」と失望しかけた。

それでも、そんな批判的な声にも心を折ることなく店主・古川氏は次々と新しいチャレンジをしていく。

逆風をものともせず己が信じる一杯でラーメンシーンを塗り替える

濃豚つけBUTOのメニュー

つけ麺では「濃豚(ノートン)つけBUTO」なんていう、札幌どころか全国的に見てもインパクトの強いつけ麺を出したりしてね。

私の「いやいや、そもそもつけ麺文化の浸透していない札幌でやり過ぎなんじゃね?」という懸念をよそに、なんと着実に札幌のラーメンファンの心を掴んでいった。

濃豚つけBUTO

▲2007年6月に登場「濃豚つけBUTO」。濃厚な豚骨スープ+魚介に極太の麺に衝撃を受けた札幌市民も多いはず

「流行らない」「なんだこれ」なんていう批判的な声にも負けることなく「美味しいと信じるものを提供する」という彼のスタイルが徐々に札幌のラーメンシーンを変えていったのは間違いないと思う。

DUCK醤油

▲DUCK RAMEN EIJIで提供されていたDUCK醤油

その後も積極的に新しいチャレンジを行っていく。鴨を主役にしたラーメンだったり、海苔を主役にしたラーメン、無化調の二郎系ラーメンなど。

ブラックラーメン

▲海苔を活かしたブラックラーメン

時には農家の生産者さんと話をして北海道素材を積極的にラーメンに取り入れたりと彼のチャレンジは留まるところを知らない。

彼の挑戦が札幌のラーメンシーンを次々と変えていったのは間違いないと思う。

日本に留まらずオーストラリアへ進出

そして彼のチャレンジは北海道に留まらなかった。いや、日本に収まりきらなかったと言った方がいいかもしれない。

「MEN-EIJI」では「とかちマッシュ(十勝生まれのマッシュルーム)」をはじめ北海道の食材にスポットを当てラーメンやサイドメニューに生かすことが多い。

店主・古川氏曰く「北海道の人は北海道に住んでいながら、その魅力的な食材をあまり知らない」とのこと。

食券機

▲「MEN-EIJI」において、とかちマッシュはサイドメニューやスープでよく登場する食材

ラーメンという身近な料理かつ身近な飲食店を媒体とすることで、スポットが当たっていない食材の魅力をより伝えやすくなるという考えもあるのだと思う。

大石さん
私自身も「とかちマッシュ」という食材を知ったのは「MEN-EIJI」がきっかけだった
餃子

▲餃子と言っても「MEN-EIJI」がとかちマッシュで作るとちょっとレベルが違う

さて、この考え方。実はオーストラリアの出店にもつながっているらしい。「地元の食材を使って麺文化を根底からひっくり返す」という壮大なテーマがあるようだ。

ZUROZURO RAMEN BARで提供されているRAMEN

▲オーストラリアゴールドコーストのZUROZURO RAMEN BARで提供されているRAMEN) 引用元:zurozuro_burleighインスタグラムより(https://www.instagram.com/zurozuro_burleigh)

これも、日本と同様にオーストラリアの人たちも地元にこんな美味しい食材があると知らないであろう、という確信から考えられたことのようである。

他の人が言うと「誇大妄想」ともとられかねない発言も、オーナーの古川氏が言うと「夢物語」には全く聞こえない。

それどころか「ホントに地元の人が驚くラーメンを提供する」のはもちろん「地元の人が地元食材の魅力を再発見することにもつなげる」んだろうなという気がしてならない。

「MEN-EIJI」の「EIJI」は実は……

さて、そんな「MEN-EIJI」のオーナー・古川氏が今年またまた新しいチャレンジをした。地下鉄南北線北24条駅近くに「マルエーラーメン店」というお店をオープンさせたのだ。

オーナー・古川氏はSNSでこんなコメントをされていた。

マルエーラーメン店
マルAのAはAttackのAです

Attack=攻撃

攻めて行こう!とスタートしたのがマルエーラーメン店です
(出典:X(旧Twitter)@furukawa_inc

大石さん
いやいや!十分に攻め続けて来たでしょ!!まだ攻めるんかーい!

前段が非常に長くなったが、ここからが今回のテーマの「二世」の話となるのである。その話題のマルエーラーメン店を仕切るのが、オーナー・古川氏の息子さんである「古川永慈(えいじ)」氏である。

そう!お気づきと思うが「MEN-EIJI」のEIJIはオーナー・古川氏の息子さんの名前に由来するのである!

生まれた時から二世確定!というわけではないが、永慈氏も当然幼少期から意識されていたのではないでしょうか。

マルエーラーメン店の外観

▲今年2023年6月14日にオープン

その息子・永慈氏が中心となって運営されているのが、今回紹介する「マルエーラーメン店」。

大石さん
そりゃMEN-EIJIのオーナー・古川氏が新店で手掛けるんだもの。みんなの注目もめちゃくちゃ高かったね

ある意味全員がハードルを上げてお店に足を運んだと言っても過言ではないと思う。それにも関わらず、食べた人全員が口々に「めちゃくちゃ美味しかった」という。

使用食材や製法の説明

▲こだわりがびっしりと書かれている

ラーメンメニューは、基本は2種類のスープから選ぶ。

マルエーラーメン

▲あっさりのマルエーラーメン

「あっさり」の醤油か、

こってりマルエーラーメン

▲こってりマルエーラーメン。豚の背脂でこってり感はあるものの口当たりはまろやかで食べやすい

豚の背脂が加えられた「こってり」か。

大石さん
え?どっちがオススメかって?「両方食べるべき」だと思います(笑)

こんなの食べたことない!新感覚のこだわり麺がうまい

製麺風景

▲ぱっと見、そばを切っているようだが、ラーメンなのである

さて、このお店の最大の特徴は「注文が入ってから手切りして手揉みをする麺」である。

手打ち蕎麦屋でよく「打ちたて・切りたて・茹でたて」の3たてなんてのがあるが、ラーメンで「切り立て」なんて聞いたことありますか?

そして実は「あえて!打ち立てではない!」ということも付け加える必要があると思う。

手揉み麺

▲手揉みで縮れた麺にスープがよく絡む

自家製麺を知り尽くしたオーナー・古川氏。打ちたての麺の良さも知っているが、一方で熟成された麺の美味しさも知っている。

「打ち立てだと、本当の意味の麺の良さが出ない」ということなのであろう。麺を打って麺帯(めんたい)の状態であえて数日寝かせている。そうすることでどうなるか!

麺の表と裏は空気に触れて熟成が進む。一方で注文が入ってから麺を切ることで、切られた部分はその時初めて空気に触れるという熟成とフレッシュの2つの面ができるわけだ。

最後に強めに麺を手揉みすることで複雑な食感と旨味が生まれるという理屈だ。スゴイことを考えるよね~!

麺

▲かなり加水率の高いモチモチの麺

で、その肝心の麺の味なのであるが、これが素晴らしく美味しい!噛みしめた時の弾力がなんとも言えない不思議な食感なのである。噛みしめる部位によって違う食感が生まれているのかどうかはわからないが「新感覚」と言ってもよい。

強めの縮れから生まれる「すする時の」唇を震わす食感、「噛みしめた時の」不思議な弾力と新感覚。そしてあえての熟成で引き出された「麺そのものの持つ甘さ」。美味しくて、しかも楽しい麺だ。

豚の甘みを引き出した豚清湯

スープ

▲豚清湯のお手本のような豚の持つ素材の甘みが引き出されたスープ

ラーメンメニューは基本は2種類のスープから選ぶと前述したが、ベースは豚の清湯スープ。スッキリした口当たりながら、豚本来の持つ甘さが長く余韻を感じさせてくれる。

埼玉県の弓削多醤油や小豆島のヤマロク醤油の他数種類の醤油をブレンドしているとのことだが、醤油の持つ深い味わいが豚清湯と合わさって極上のスープになっている。

「こってり」のスープ

▲中毒性の高い味わい

背脂の加えられた「こってり」は、その豚由来の甘さをさらに強調した印象だね。

カネ久商店の黒ナルトに注目!

豚もも肉のチャーシュー

▲豚もも肉のチャーシュー

チャーシューは2種類。豚もも肉は低温調理で肉の美味しさを閉じ込め、噛みしめると口の中に肉本来の美味しさが広がる。

豚バラ肉は最後にサクラのチップで燻された香り高い仕上がり。香りのアクセントとしても最高!

乾燥短冊メンマ

▲6日間かけてじっくり戻した乾燥短冊メンマ

「MEN-EIJI」ファンならよく知るこのメンマの食感も美味しさも、「MEN-EIJI」ならではの秀逸な美味しさ。

黒なると

▲国産竹炭と黒ゴマでこの色を出しているらしい

もっとも目を引くのがこの「黒ナルト」!静岡県焼津市のカネ久商店のものらしい。保存料を使用していないというこのナルトは味だって抜群。

大石さん
脇役と取られがちなナルトだけど、これは主役級のインパクトだよね!

麺を味わうならつけ麺もおすすめ

あっさりつけ麺

▲あっさりつけ麺。並盛大盛どちらも同じ価格なのが嬉しい

ラーメンは「あっさり」と「こってり」どちらもオススメだが、麺の美味しさを味わうには、つけ麺で食べるという手もありますよ~!

こってりつけ麺

▲背脂が加わるこってりつけ麺

こちらも「あっさり」と「こってり」があり、どちらを食べるか迷うところ。まぁどっちを食べても美味しいんだけどね。

つけダレ

▲「こってり」のつけダレ

つけダレはノスタルジック系つけ麺を意図したのか「甘・辛・酸」のバランスを取ったもの。

大石さん
私は個人的にこの手のノスタルジック系のつけダレが大好き!

ベースの豚の清湯スープが秀逸だから、特に酸味のアクセントがい~い感じにどストライクだった。

卓上調味料

▲卓上の調味料で味変も

途中でゆず酢を麺にかけても美味しかった。

悪魔的なビジュアル…ニンニク背脂ライス

最後に悪魔的なサイドメニューもご紹介しておこうかな。「ニンニク背脂ライス」!!これにさらにネギの乗った、ネギニンニク背脂ライスなんてのもある。

ニンニク背脂ライス

▲ニンニク背脂ライス

これは……説明いりますか?

ネーミングとビジュアルで美味しさがわかってもらえると思う。ダイエット中の方は写真だけでも迷惑かもしれない。

大石さん
トロトロの背脂にニンニクと醤油のタレの旨味。まぁ悪魔的な美味しさだね^^;
完食の器

ということで、2023年にオープンした新店の中でも特に注目を集めているお店「マルエーラーメン店」をご紹介しました。

ラーメンに限らず料理全般そうなのかもしれないけど、私の知る限り「ラーメンは同じ素材を使っても同じお店にはならない」と思っている。

仮に「MEN-EIJI HIRAGISHI BASE」でオーナー・古川氏がこれを調理して限定メニューで提供したら、あっという間に話題になるのは間違いない。

でも全くの新店である以上、百戦錬磨のオーナー・古川氏がレシピを作り、切りたて揉みたての麺という発想をしたにしても、ちょっと意味が違ってくると思う。

本当の意味で真の有名店に成長していくかどうかはやっぱり息子さんの永慈さんの腕にかかっていると思う。

看板

▲店外の足元に置かれた看板

素材を活かす調理方法で同じ味を提供しつづけるのはもちろんだが、お店の雰囲気作りやスタッフの教育など、お店を運営するのは大変だと思う。

でも息子・永慈氏のX(旧Twitter)のアカウント名が「ラーメン屋の息子(古川永慈)」(2023年12月現在)となっていることからも「決意と覚悟」が伝わってくる。

偉大な父を持つ「二世」でプレッシャーも半端ないことと思うのであるが、食べる側としては純粋に「楽しみでしかない」のである。

町中華屋台 飯田

「Mari iida」の外観

2016年に白石区にオープンした「Mari iida」。その洗練された味わいはオープン当初から注目を集める人気のお店だった。

化学調味料を使用しない所謂「無化調」ゆえに美味しさを引き出すのは難しいはずだが、勉強熱心な店主・マリさんこと吉田(旧姓飯田)真里さんが日々研鑽を積み、美味しいラーメンへと今も進化を続けている。

つけsoba

▲創業直後に提供されていた「つけsoba」濃厚スープに加水率高めのつるつるな麺が美味しかった

そして自家製麺が日々進化し、そのクオリティが高まるとともに人気も評判もうなぎ上りに高くなっていった。

飯田製麺のオープン告知

麺が美味しい強みを活かし、ラーメンに留まらず2023年7月には「飯田製麺」といううどんのお店もオープンさせた。

さてその「Marii ida」が2023年1月にオープンさせたのが「町中華屋台 飯田」である。

店名 町中華屋台 飯田
所在地 札幌市東区北十五条東1-2-19
アクセス 地下鉄東豊線「北13条東」駅から徒歩4分
駐車場 あり(店舗前2台、ほか専用駐車場2台)
営業時間 【昼の部(ラーメン)】10:30〜14:30、【夜の部(居酒屋)】16:00〜0:00 日曜営業
定休日 なし ※年末年始等はSNSでお知らせ
席数 22席

(店舗情報の引用元:食べログ

高校1年生から店主をやっていた!?

「町中華屋台 飯田」の外観

▲ふら~っと一杯やりに入りたくなる「町中華屋台 飯田」の外観

個人的な感覚でしかないが、札幌って本格中華やラーメン店は多いものの、その中間に位置する「町中華」ってのが少ない。

私の東京在住時は仕事帰りに町中華にふらりと入り、ビールと餃子やチャーハンを食べ、〆にラーメンをいただく、なんて晩御飯を普通にやっていたけど、札幌ではそれにぴったり来るお店が少ない。

大石さん
あくまで私の通勤経路には!ってことになるんだけどね。そんな札幌にこうやって「町中華」を名乗るお店が登場するとそそられるよね~。暖簾のレバニラ・ハイボール・チャーハンなどの文字を見るだけで血が騒ぐ!
メニュー表

▲メニューからも余念のない雰囲気作りの意気を感じる

さて、こちらの「町中華屋台 飯田」を紹介するにあたり、この店を中心となって運営している人をご紹介しなくてはならない。

もちろん「Marii ida」の店主・マリさんが関わっているのであるが、このお店をやりたいと言い出し、運営の中心となっているのは息子さんの「おともやん」こと吉田朋矢氏である。

「Mari iida」では2周年を機に「麺処おともやん」と店名を変えて特別営業を行うことがあった。その時に「店主」として味作りから調理までを行っていた朋矢氏はなんとその時、高校生1年生!

「麺処おともやん」のメニュー

▲「Mari iida」を間借りして限定営業していた「麺処おともやん」のメニューの一部

しかも、それが「高校生のお遊び」とかじゃない。本気の本気でどれもこれもめちゃめちゃ美味しいと来ているから驚き。

「麺処おともやん」の限定メニュー表

汁なし担々麺を提供した時には「台湾まで行って勉強して来た」ってんだから。メニュー名に「本物の」と冠しているのもわかる。高校生が、語学留学じゃなくて料理留学ってどんだけ意識が高いのやら。

大石さん
「麺処おともやん」は2~3日の短期間営業とはいえ、仕込みから調理まで当時高校1年生が全部やっていたって信じられますか?

ラーメン以外の町中華メニューだけでも満足できるクオリティ

レバニラ炒め

さて、そんな「町中華屋台 飯田」。それなりに自分の中のハードルを上げて食べに行ったが、これが実にイイ!レバニラ炒めのレバーは肉厚ジューシーで野菜はシャッキリ!

生麺焼きそば

なんせ全体的に値段がリーズナブルだから色々と頼みたくなっちゃう。「Mari iida」の自家製麺を使用した生麺焼きそばは麺の美味しさを楽しむのにうってつけ。

油そば

油そばも麺の美味しさでビールが進む。

卓上調味料

色々揃った卓上調味料で味変を楽しむ頃にはビールはハイボールに変わっていた。

こうやって、お酒を飲みながら中華料理で一杯やる。「ラーメン専門店」ではなく「町中華」というお店の特権だと思う。

チャーハン

町中華に欠かせないチャーハンはしっかり目の味わいでお酒のお供にピッタリ!

大石さん
他にも多数頼んだけど、そろそろ〆のラーメンの話を少ししなくちゃね^^;

〆はコレ!中華で疲れた胃に優しく染み渡るラーメン

注文したラーメン

▲写真左から、ワンタン麺、ホワイト中華そば、ニラ豚中華そば

実は以前にこちらのお店の「朝ラーメン」をいただいたことがある。素材の旨味にあふれ、抜群に美味しかった!

でも、これだけお腹いっぱいに食べて、お酒もたくさん飲んだ後だと「朝ラーメンみたいな旨味にあふれたタイプだとちょっと重いかも」なんて懸念もしていた。

スープ

▲夜のラーメンのスープは〆にふさわしく「優しいスープ」

ところが夜メニューのラーメンはきっちり「優しめチューニング」がされていたのが嬉しかった。

ワンタン

▲ぷりぷりのワンタンはかみしめると中から肉汁があふれ出す

もちろんどれもこれもしっかり美味しいラーメン!

大石さん
表面が滑らかなワンタンは具がぎっしり入っていて、〆のつもりなのにもう一杯ハイボールを追加しちゃったりしてね^^;
自家製麺

▲「Mari iida」の自家製麺もスープによく合う優しい味わい

だけどあくまで「主張し過ぎない」という配慮が感じられるラーメンだった。

これでもかっ!ってぐらい旨味の強いラーメンはそれだけで満足感がある。そして、そういうモノをこのお店が作れることも知っている。

三色ナルト

▲外がピンクで中心が緑の三色ナルトは実は北海道以外ではあまり見られない特徴的なもの

でもここはやっぱり「町中華の夜営業ラーメンは〆的存在」という店主さんの心遣いなんだろうと思う。食事の後の余韻を楽しむためのチューニングなのだ。

ほっとした気持ちと満足感でお店を後にしたのだった。

大石さん
まるでここで話が終わりのように思うでしょ?実は話は続くのです!(笑)

2023年12月から昼はラーメン店に変身!

昼営業の「町中華屋台 飯田」

▲そんなに営業されては昼も夜も行きつけになってしまう!

はい!のれんの色が違います!実は2023年12月1日より昼営業で「ラーメン店」がスタートしたのです!

昼の部のメニュー

10食限定の「レバニラ定食」と言うメニューはあるものの、主役はラーメン+サイドメニューと言う構成だ。

ゆず塩ラーメン

▲ゆず塩ラーメン

少し前にいただいた夜営業の「町中華」のそれとスープの透明感だけは似ているが、その味わいは全然違う!

スープ

▲見た目の透明感は夜の中華そばと似ているが味わいは全然違うスープ

煮干などの素材の旨味が前面に出てきて舌と鼻を喜ばせてくれる。

大石さん
「飲んだ〆で余韻を楽しんでもらう」夜と「一杯で満足してもらう」昼とでは違うコンセプトが必要という考えなんだろうね!この旨味と香りの洪水は一杯で食事として満足させるポテンシャルを持っている
麺

▲ストレートに近い麺

麺は噛みしめると後からほんのり甘みさえ感じられる秀逸な麺。ほのかに香る柚子の風味との相性も抜群だ!

2種のチャーシュー

▲豚と鶏、どちらも文句なく美味しい

絶妙な火加減で肉のうまみが閉じ込められた豚肉のチャーシューに、柔らかくジューシーな鶏のチャーシューの2種類を乗せてくるところもニクイ!

タケノコ

▲一本まんま入ったタケノコの存在感がスゴイ

メンマ代わりのタケノコは食感のアクセントとしてとてもイイ!こういうちょっとした驚きや遊び心も加えられているところにもセンスを感じるね。

大石さん
北海道ではこういうヒメタケやネマガリダケなどの笹竹系のものをタケノコと呼びます

昼のラーメンは一杯で満足できる「重厚な旨味」の一杯でした!

追加の一杯

あれ?一杯で満足できる重厚な旨味……と書いておきながら、この写真はなんだ?

こういう時、私は「ツレの彼女が注文した」と言ったりするのですが、もちろん独りで行っているわけで、ツレの彼女なんかいない。

なんのことはない、美味しすぎて追加で味噌ラーメンを注文しちゃいました!専門用語で言うなら「おかわり」と言います。専門用語でもなんでもない。

大石さん
前述の「一杯で満足できる」というのは決して嘘ではない。だが、美味しすぎて追加注文しちゃってもそれは自己責任ってことで記事に関するクレームは受け付けません!あしからず

野菜にかけるひと手間に脱帽

野菜

▲それぞれの野菜の火加減がベストな状態になっている、そのヒミツは?

さて、この味噌ラーメン。まず作り方にびっくりした。夜営業で中華鍋を使っていることは知っていたので、それでモヤシなどの野菜をあおり調理するのかと思ったら、

まずは雪平鍋で挽肉やタマネギ・味噌などを炒め始めた。その後時間差でモヤシやキャベツなどの野菜を強火の中華鍋で炒めるという手間のかかった手法。

結果、同じ野菜でもタマネギは透き通るような色合いで甘さが立ち、モヤシはシャキシャキと歯ごたえも楽しめるという仕上がり。味噌も焼くことで香ばしさが立ち、自然な甘さや深いコクのある極上の「札幌スタイル味噌ラーメン」になっているのだ。

麺

▲合わせる麺は適度な縮れの加えられた弾力のある麺

札幌ラーメンのスタイルながら新しさを感じる秀逸な味噌ラーメンだ。

この日はおともやんこと、息子・朋矢氏が厨房に入っていたので少し話を伺った。

現在はこのお店の昼営業が数日と夜営業が数日。その他、忙しさに応じて「Mari iida」のヘルプや江別の飯田製麺の手伝いにも入ったりしているとのこと。

内装

▲母親の「マリ」や息子の「トモヤ」の文字を忍ばせる遊び心

もちろん昼営業の店主さんや夜の店主さんが別にいて、彼はその合間を埋めるようなポジションなのだろう。しかしお店の方針を考えたり抜けた穴を埋めたりと、考えることもやることも大量にあるはずなのに。

大石さん
ただただ「すごい」の一言である。こういう二世がラーメンのみならず様々な料理を作って人々を喜ばせている。日本の未来は暗いどころか明るいんじゃね?って思ってしまうよね

札幌ラーメン最新事情2023年いかがでしたでしょうか

ということで「二世がつなぐ札幌ラーメンのバトン」というテーマで3店にスポットを当てて書いてみました。3店それぞれに「一世」のお店に思い入れがあり、思いがけず長い記事になってしまいましたがお許しください。

親の背中を見て育ったお子さんが同じ道を歩む。素晴らしいことですね。ただ、その一方で札幌ラーメンの老舗店の閉店も依然として続いているという現実もあるのです。

名水ラーメン

昨年2022年には私の地元新札幌でも老舗ラーメン店2店が相次いで閉店しました。平成9年にオープンした名水ラーメンは25年の歴史に終止符が。

北の大地

昭和57年創業の「北の大地」は41年の長い歴史に幕を閉じてしまいました。人気があり、地元の人に愛され続けてきたお店の閉店はやはり寂しいものがあります。

数年前に閉店したとある人気ラーメン店の店主さんに「お子さんに継がせるという考えは無かったのですか?」と伺った時にこんなことを言っていました。

「こんなラーメン屋を継がせるぐらいなら自分の道を進んでもらった方が親としては嬉しい」

老舗店の中には「子供には継がせたくない」と考える人が少なくないように感じます。ご自身が苦労されたという理由もあるのかもしれません。

大石さん
「こんなに愛されて、お客さん皆が喜ぶ仕事なのに?」という風に考えるのは食べ手側の勝手な思いなのかもしれないと思ったものだ

そんな中、今回ご紹介したお店のようにお子さんが自ら「同じ道に進みたい!」という店があるのは本当に明るい話題だと思っています。未来の札幌のラーメンシーンは彼らがつくって行くのだろうから。

今後にワクワクしながら札幌ラーメン最新事情2023を終わりにしたいと思います。一年間のお付き合い、ありがとうございました!

札幌ラーメン最新事情……続編は?

3年ぶりに書かせていただいた札幌ラーメン最新事情。以前は短期集中連載でしたが、今年は1年間ゆるゆると書かせていただきました。

実は食べ歩きも減っている上、他の仕事との兼ね合いもあるので、今年一年限りの連載と考えていたのですが、ありがたいことに「来年も続けてほしい」とのお声がけをいただきました。

大石さん
また、読んだ方から「面白い」「続けて欲しい」という「社交辞令」をいただいたりすると、真に受けちゃう性格というのもあります(笑)

ということで、少し更新ペースは落とさせていただくとは思いますが、2024年も本コラムを執筆させていただきます!来年もお付き合いいただければ嬉しく思います。

WRITER/大石 敬(札幌ラーメンコンシェルジュ)

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