ジビエのシーズン到来! 本場・釧路でエゾシカ料理セミナーを開催してきました。

エゾシカ

こんにちは、ぐうたび北海道副編集長の木村です。

北海道では10月1日からエゾシカ猟が解禁。レストランにも、そろそろジビエ料理が並び始めているのではないでしょうか。

そんなジビエのシーズンを目前に控えた10月26日(金)、ぐうたび北海道編集部は、プロのシェフを対象にした料理セミナーを開催しましてきました。会場は、日本を代表する4人の彫刻家による「乙女の像」が立つ、幣舞橋のたもとにある釧路観光国際交流センター。晴天の釧路は気温15度。13:30から始まるセミナーには、ウィークデーの金曜日にも関わらず、約40名のシェフが、店を離れて会場に駆けつけてくれました。

エゾシカ料理セミナー in 釧路 2018/10/26

釧路観光国際交流センター

釧路観光国際交流センターは、夏の夜空を彩る霧レーザーショーを楽しむ「くしろ霧フェスティバル」や、花火と食のイベント「釧路大漁どんぱく」など、釧路を代表するイベントの会場となる、釧路を代表するイベント施設。

セミナー会場の大ホール

セミナー会場となった大ホールは広さが1800平米と、体育館が2、3館入るのではないかという巨大な空間。今日はここで、初開催となるエゾシカのイベント「くしろジビエの祭典 KUSHIRO DEER & BEER PARTY 2018」が開催されるのです。

セミナー会場は1800平米の一角に、パーテーションを組んで設営。ザワザワと賑わうイベント会場とは対象的に、テーブルクロスを敷いたテーブルに、柔らかいクッションの付いたイスを配置した落ち着いた雰囲気。

北海道環境生活部環境局の生物多様性担当局長・東郷典彰氏の挨拶

13:30、予定通り、北海道環境生活部環境局の生物多様性担当局長・東郷典彰氏の挨拶から、セミナーが始まりました。

<講演>安心・安全なエゾシカ肉の提供に向けて

エゾシカ食肉事業協同組合代表理事の曽我部元親(そがべもとちか)さん

冒頭の講演は、地元・釧路で阿寒グリーンファーム食肉加工センターを経営する、エゾシカ食肉事業協同組合代表理事の曽我部元親(そがべもとちか)さん。

曽我部さんの講演の様子

エゾシカ食肉事業協同組合は道内のエゾシカ肉処理業者7社が協同して、エゾシカ肉の安定流通や商品開発などを行っている団体です。曽我部さん自身も釧路市で食肉処理施設を営んでいます。

地元とあって、顔なじみのシェフも少なくないようでしたが、あらためて捕獲から加工、出荷まで、安心・安全なエゾシカ肉を提供するために行っている取り組みについて紹介していただきました。

ここでは、当日説明で使われたスライドから主要なものを紹介します。

北海道の解体処理施設の現況を映し出したスライド

この資料は、北海道内にあるエゾシカ解体処理施設の説明です。

北海道内には保健所の許可を得ている解体処理施設が約100施設あり、その中で北海道が認証するエゾシカ衛生処理マニュアルに基づいた適切な処理を行う食肉処理施設は現在13施設。

以下の項目を全て取得・遵守している施設が認証施設として認められます。

(1) 道内に食肉処理施設を設置する食肉処理事業者であること。
(2) エゾシカ衛生処理マニュアル(平成18年10月北海道作成)を遵守していること。
(3) 北海道HACCP(北海道保健福祉部)で、評価段階A以上を取得していること。
(4) 出荷する製品について、書面上でトレーサビリティ管理を行っていること。
(5) 要綱に定めるカットチャートを遵守していること。
(6) 包装されたエゾシカ肉に要綱に定める記載事項を表示していること。

食肉生産の現状1 銃猟肉についてのスライド

この資料はハンターが狩猟をしてから販売までのプロセスを説明したもの。曽我部さんは、ハンターと処理場の関係を「救急車と病院の関係」と説明してくれました。どういうことかというと、ハンターはエゾシカを仕留めると、処理施設に「あと1時間で持ち込みます」と電話をします。電話を受けた処理施設は、連絡とともに受け入れ体制を整えて待ち構え、エゾシカが届き次第、すみやかに内臓を処理し、皮を剥いで枝肉の状態で3、4日冷蔵庫で吊るし、その後に骨から外して部位ごとに分けて商品にします。

食肉生産の現場2 養鹿肉についてのスライド1 食肉生産の現場2 養鹿肉についてのスライド2

この資料はもう一つの捕獲、罠猟による「生態捕獲」の説明です。誘引用の餌を罠の中に配置して、エゾシカが罠に入ったら入り口の扉を閉めて捕獲する、囲い罠猟です。以前は近くに車を止めて、エゾシカが入るのをじっと待っていたそうですが、IT時代の今は、罠の中の様子をスマホで確認できるようになっていて、スマホのボタンひとつで扉を閉めることができるそうです。

安心・安全を目的とした認証制度、2種類の生産現場の説明に加え、低脂肪・低カロリーで鉄分豊富というエゾシカ肉の特徴を説明した曽我部さんは、最後に参加したシェフへ、以下のようなメッセージを伝え、講演を締めくくりました。

「エゾシカは、サケやサンマと行った天然魚と同様、取れる量が不確実。大量生産、大量販売ができない食材です。だからこそ、この希少なエゾシカ肉を衛生的な高級肉として提供していく組織づくりを目指しています」

<実演1> エゾシカ肉の解体実演と部位に適した料理の説明

続いて行われたのは、黒島俊也さんによる、エゾシカ肉の解体実演です。

黒島さんは、エゾシカ肉を始め、アイガモ、ラム肉、ブランド牛など、レストランでメイン食材として使われる高級肉を中心に扱う滝川市の会社「株式会社アイマトン」で、外販事業部のエグゼクティブマネージャーとして活躍。内閣官房長官が議長となっている組織「ジビエ利用拡大に関する関係省庁連絡会議」に有識者として参加されている方で、平成25年「北海道エゾシカミーティングin OSAKA」や、昨年実施した「エゾシカ料理セミナーin大阪」でもエゾシカ肉の解体実演を実施しています。

エゾシカの枝肉半身

テーブルの上に置かれたのは、エゾシカの枝肉半身。肉に刺さっている緑色のプレートは「シンタマ」「ランプ」「ネック」「カタロース」など、肉の部位の名称が書かれています。

プロのシェフのみなさんも、店で仕入れている肉は、すでにカットされていることが多く、かたまりで、しかも半身の状態で見ることは、ほとんどないようです。みなさん始まる前から食い入るように見ています。

枝肉を部位ごとに切り分ける実演

実演がはじまると、黒島さんが素早いナイフさばきで、次々と枝肉を部位ごとに切り分けて行きます。

ナイフの入れ方から、骨の外し方、筋の入っている位置、剥がしにくい部位のナイフの入れ方、希少部位を傷つけないナイフの立て方など、エゾシカの骨と肉の構造を紐解きながら、微に入り細に入り説明してくれます。

切り分け実演中の黒島さん

写真で黒島さんが左手に持っているのはエゾシカのモモ肉。この塊り肉からウチモモ、シンタマ、ソトモモ、ランプ、スネに分けていきます。

例えばスネ肉を切り落とす時は、「アキレス腱を切ってスネを露出させます。肉がねじれているので、ねじれに合わせてナイフを入れて肉を起こします。関節部分は(ねじれたり、噛み合っていたりせず)まっすぐなので、ナイフをそのまま入れて落とすことができます」とプロの技を惜しみなく伝授。

実演中の黒島さん

「ウチモモは低温調理に向いてます」「友三角は意外と柔らかいのでイタリアンならタリアータとか、薄く切る肉料理にも使えます」「シンシンは柔らかいが、真ん中に薄い筋が1本入っています」「亀の子はシンシンに比べて食感はありますが、筋がないのが特徴」などなど、もも肉もさらに細かく解体して、部位ごとの特徴と使い方を、わかりやすく説明してくれました。

実演中の黒島さん 部位ごとに並べられた鹿肉

解体が終わるとバットの上に、部位ごとに並べてプレートを指して展示。

説明をしながら一気に解体をしましたが、まだまだ見ていたくなるような、あっという間の40分。実演終了後も、多くのシェフが、部位の特徴や扱い方などについて、さらに突っ込んだ質問をして、盛り上がっていました。

 

<実演2> エゾシカ肉を使った調理実演

今回のセミナーのメインイベントは、エゾシカ肉を使った調理実演。講師はANA クラウンプラザホテル釧路 総料理長・楡金久幸さんです。

ANA クラウンプラザホテル釧路 総料理長・楡金久幸さん

楡金シェフは釧路市出身。釧路パシフィックホテル、京王プラザホテル札幌を経て、1996年に釧路全日空ホテル(現・ANAクラウンプラザホテル釧路)入社。2005年より総料理長に就任し、2011年、日本エスコフィエ協会ディシプル賞を受賞しています。

羊肉、シカ肉、チーズ、魚介類など地場食材の活用にこだわり「地産地消」の実践を厨房から発信。釧路管内の各地で開催される地場食材を活用した料理講習会などの講師も数多く行っています。

今回は以下のエゾシカ料理4品を実演で調理していただきました。

実演メニュー

(1)エゾシカのリエット青胡椒風味、赤キャベツのマリネを添えて

(2)エゾシカのラグーソース

(3)エゾシカのソテー 赤ワインと黒胡椒のソース

(4)エゾシカのカツレツ トマトソース

調理実演を始めるにあたり、楡金シェフから地元のシェフの皆さんに向けて、今回の趣旨を伝えていただきました。

「エゾシカ肉って値段高いよねって言う話をよく聞きます。だけど、もっとこう言う部位を使って料理すると、コストを抑えながらも、美味しいエゾシカ料理を提供することができますよ、っていうことを知ってもらいたい」

「モモ肉の端っこの部分はこう言う風に使うだとか、この部分だってこう言う風に調理すれば、柔らかくなるし美味しく使えるよといったことを、私がこれまで積み重ねてきた経験から、紹介させてもらいます」

実は今回の4品はすべて、エゾシカ肉の部位の中でも比較的仕入れ単価が抑えられる、モモ肉を使った料理になっているのです。

「釧路市で行う料理セミナーだから、フレンチやイタリアンのシェフよりも、居酒屋やカジュアルなレストランの方の方が多いだろう」ということを考えて、今回のメニューを設定していただきました。

調理をすすめる楡金久幸さん

最初に作ったエゾシカのリエットは、端肉を使って作る料理。

聞いている皆さんもプロなので、テキパキと調理を進めます。

楡金シェフの話を拝聴する参加者

みなさん、席を立ってキッチン台の前でかぶりつき。

楡金シェフの話を必死にメモしたり、調理の様子を近くまで寄って撮影をしたり、とても真剣な眼差し。

今回はさらに、それぞれの料理について、1人前あたりどれくらい原価がかかるか、というところまで紹介したので、自分の店で出すことができるかどうか、かなり具体的に検討することができたのではないでしょうか。

料理を盛り付ける料理職人

舞台裏は戦場。

キッチンの後ろでは、ANAクラウンプラザホテル釧路のスタッフが、全員分の試食メニューを急いで作っています。

料理長のお話しを真剣に聞く釧路短大の学生

セミナーには釧路短大の学生も参加。

間近でプロの大先輩の調理を見られるとあって、表情も真剣そのもの。

講演中の楡金シェフ

楡金シェフが特に強調していたのは、釧路でジビエであるエゾシカ肉を出すことの難しさ。

ナイフとフォークを上手に使って肉料理を食べる欧米人は、フォークの背の部分で肉の硬い部分を潰してソースをつけて食べたり、食べやすいように自分で上手に処理する。そう言うことに慣れていない、特に釧路の人は、少し硬かったりするだけで苦手に感じたりしてしまう。そこを感じさせないように、いかに下ごしらえをし、調理をするか。

シェフ自身も地元釧路のホテルでエゾシカ料理を出し続け、苦労してきた経験のエピソードにも、参加したシェフの皆さんは、興味深く耳を傾けていました。

エゾシカのカツレツ トマトソース

「エゾシカのカツレツ トマトソース」は、とにかく肉が柔らかく、焦がしバターがとても上品な味わいに仕上がっていました。

エゾシカのリエット青胡椒風味、 赤キャベツのマリネを添えて

「エゾシカのリエット青胡椒風味、 赤キャベツのマリネを添えて」は、肉の味がギュッと締まったリエットを、酸味のあるキャベツのマリネの相性が抜群。

エゾシカのソテー赤ワインと黒胡椒のソース

「エゾシカのソテー赤ワインと黒胡椒のソース」

エゾシカのラグーソース

「エゾシカのラグーソース」は冷めても美味しかった!

楡金シェフ

釧路のエゾシカ料理への取り組みは、どの街よりも長い街です。楡金シェフは、平成15年に、エゾシカ食肉事業協同組合代表理事の曽我部元親さんから相談されて、「エゾシカバーガー」を開発したのが始まりだと言います。その時から、地元の釧路の人にエゾシカを食べてもらえるか、を考えてメニュー開発を続けてきました。それだけに、これだけの人数のシェフがエゾシカ料理セミナーに集まるようになったというのは、感慨深いものがあったようです。

参加したシェフは40名。その中には釧路だけでなく、弟子屈、知床、占冠、そして札幌からも参加する方がいらっしゃいました。このセミナーに参加した皆さんが、これから美味しいエゾシカ料理をどんどんメニュー化します。エゾシカ料理がラーメン、ジンギスカンに並ぶ、北海道を代表する料理に育っていく日が来るのが、今から楽しみです。

WRITER/木村 一哉(ぐうたび北海道 副編集長)

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