札幌に「ラーメン横丁」と名の付く、ラーメン店が並ぶ一角があることは割と知られていると思います。
ですが、その「ラーメン横丁」には「元祖ラーメン横丁」と「新ラーメン横丁」の2つがあることは、北海道外の方は意外と知られていないようです。
始めに断っておくと「元祖」と「新」は全く別な団体。両者に関係性は無いのですが、地元民の中にはひとくくりに「ラーメン横丁」と呼ぶ人も多いようです。
そして、ちょっと残念なことに地元の方の中には「観光客のための場所で地元民は行かない」「悪い評判を聞く」なんて声が未だにあることも事実。
かつては「接客がよくない」と不評の声も
誤解を恐れずに言うと、一時期は確かに評判が悪かったこともありました。元祖ラーメン横丁は70年代初頭の横丁誕生以来、バブル景気だった90年代初頭までは、地元客と観光客による行列が連日のように見られ、最盛期には1日に約6000人が訪れていたそうです。
ところがその後、横丁が観光名所化したことで「接客態度が悪い」「愛想がない」などの風評も立って地元客が離れたと言われています。2000年代初頭には来客数は1日2000人程度に落ち込んだ、とも。
確かに、札幌ラーメンがブームでそこに胡坐をかいたようなお店があったことも否めません。一時期は元祖ラーメン横丁17店舗のうち5店舗が空き店舗、という時代もありました。
改革!客引きなど迷惑行為の禁止
けれども、2007年ごろにとある「改革」が進められました。
「『客引き行為』や『過度の呼び込み』は厳に慎みます」「お客様に不快感を与える行為(くわえ煙草(たばこ)、大声等(など))はいたしません」
こんな6項目の「憲章」が近く、横丁の通路に張り出される。16店舗で組織する「横丁会」が3年前に決めた内規だが、これを公の場に出すことで徹底を図る。引用:朝日新聞 2007年10月15日
個人的な感想ですが、現在は「ノスタルジック系札幌ラーメン」から「新しいスタイルのラーメン」まで幅広く提供されており、接客も丁寧な対応をされている店が増えていると思っています。
過去の亡霊(?)とも言える「接客態度が悪い」「クオリティが低い」「値段が高い」という先入観を取り払ってみてほしい。今こそ元祖ラーメン横丁、新ラーメン横丁の魅力を知ってもらえたらと思うのです。
ということで、今回は元祖ラーメン横丁、新ラーメン横丁にスポットを当ててご紹介してみたいと思います。
なお、今回のコラムでは、あ・え・て元祖ラーメン横丁と新ラーメン横丁を区別せずに「ラーメン横丁」と表記する部分も多くあります。
とはいえ、折角食べ歩きをするならご当地ラーメンである札幌ラーメンとそれ以外のものはちゃんと区別して食べ歩いてほしいなとも思うのです。この辺に関しては昨年の特集で詳しく説明しているので、ぜひ改めて読んでいただけたら嬉しいです。
札幌ラーメン最新事情 過去記事まとめ
元祖ラーメン横丁と新ラーメン横丁の歴史
おすすめ店を紹介する前に、ラーメン横丁の歴史に触れておきたい。
元祖ラーメン横丁の歴史は札幌ラーメンの歴史と密接に関わっている。歴史を紐解くと、1948年(昭和23年)4月に札幌市の「都市美化計画」というものができた。それにより創成川沿いや狸小路の屋台、露店が一掃され、許可を得た店のみが「指定地域」で営業を行うことになったらしい。
その指定地域の一つに「札幌劇場(元須貝ビル)前」があり、菓子店や果物店などと一緒にラーメン店も立ち並んだとのこと。
ちなみにこの時、後の札幌ラーメンに大きな影響を与える松田勘七氏の「龍鳳」もあったらしい。
松田勘七氏は味噌ラーメンの生みの親味の三平の大宮守人氏にラーメンを教えたり、西山ラーメンの原点にも深くかかわったりした、札幌ラーメンにおけるキーパーソン。
ラーメン横丁の前身となる、いまは亡き「公楽ラーメン名店街」
その後、1951年(昭和26年)に札劇前の屋台街も立ち退かなくてはならなかったらしい。それをきっかけに同年、元東宝公楽会館横に8店が入るマーケット風の建物ができた。
当初は色々なジャンルのお店があったようだが、最終的には全8店中7店をラーメン店が占め「公楽ラーメン名店街」と呼ばれるようになったとのこと。これが現在のラーメン横丁の前身となるものである。
その後1969年(昭和44年)には札幌冬季オリンピックに備えて道路拡幅工事が行われ、公楽ラーメン名店街が取り壊されることになる。それを受け継ぐ形で1971年(昭和46年)には現在の場所に「元祖ラーメン横丁」がオープンし、現在へと繋がっている。
先にも書いた接客の質を上げる努力や、多くの店が並ぶことからそれぞれの特徴やオススメが書かれた看板など、元祖ラーメン横丁全体として「質の向上」に努めていることがうかがわれる。
新ラーメン横丁について
一方の新ラーメン横丁。こちらは元祖ラーメン横丁に遅れること5年、1976年(昭和51年)に開業した。
現在でもここは階段を降りて「半地下」にあるため、当初は「もぐら横丁」と呼ばれていたとのこと。後半で紹介している「元祖さっぽろラーメン もぐら」の店名の由来なんだとか。
こちらの新ラーメン横丁は交通量の多い「36号線沿い」にある。元祖ラーメン横丁よりは目にする機会が多いかもしれない。
ただ、実はこの新ラーメン横丁の入り口の看板、昨年12月に新しいものに変わったばかり。旧看板の「新」の書体が独特だったこともあり、こちらを見て「ラーメン横丁」と言えばここしかないと思い込む人が多かったようだ。
別団体である「元祖」と「新」を一緒の記事に書くことに少しためらいもあったが、それぞれを正しく知ってもらうため歴史に触れてみた。
ということで、成り立ちについてはここで終わり。ここからは3つのお店にスポットを当てて紹介するので、少しでも食べ歩きの参考になれば幸いである。
札幌ラーメン 悠
最初にご紹介するお店は「札幌ラーメン 悠(はるか)」。元祖ラーメン横丁の北側の入り口すぐにあるお店だ。創業は2017年11月とかなり新しい。
比較的新しいお店にも関わらず、既に国内外で評価が高いようで、開店と同時に行列になる日も多い。雪まつりの時期にはとんでもない数のお客様が並んでいたらしい。
夕方の開店時間17時の少し前から並んで訪問しました!
店名 | 札幌ラーメン 悠(はるか) |
所在地 | 札幌市中央区南5条西3-6 N・グランデビル 1F 元祖さっぽろラーメン横丁 |
アクセス | 地下鉄「すすきの」駅徒歩1分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 12:00~15:30(L.O. 15:00)、17:00~00:00(L.O. 22:30)※日曜日のみ17:00~23:00(L.O. 22:30) ※無くなり次第終了 |
定休日 | 不定休 |
席数 | 10席(カウンター席) |
(店舗情報の引用元:食べログ)
一番人気は「味噌チーズラーメン」。でも今回食べたのは…
メニューはびっくりするほど豊富。一番人気の「味噌チーズラーメン」はネットでの評判もすこぶる高い。インバウンドのお客様には「辛味噌ラーメン」も人気のようだ。
で、私が狙っていたのはこちらの「こんぶとほたてのしおラーメン」。そそられるビジュアルですよね!
注文は渡されるカードからスマホで2次元バーコードを読み込んでオーダーする。
お店イチオシの「こんぶとほたてのしおラーメン」
レンコンやホタテが乗ったビジュアルは珍しく、それだけでもワクワクしてしまう。
メニュー写真よりも少し白濁したスープは、鶏ベースかな。軽やかな鶏白湯に昆布などの旨味が重なる重層的な味わい。口当たりは軽やかなのに余韻も長く、物足りなさは全然ない。
これは美味しい!
味噌などの他のメニューには「中太」と書かれていたのに対してこちらは「細麺」と書かれていた。その言葉通り札幌スタイルの縮れ麺だが、やや細めでこのスープにはとても良く合っている。
この価格でオホーツク直送のホタテが二粒も!
シャッキリ歯ごたえのレンコン。トッピングのアクセントとしても楽しいし美味しい!
がごめ昆布のシャッキリした食感もいい。さらに昆布の旨味がスープに溶け込んで美味しくなっている。
さてお待ちかねのホタテ!一個だけかと思ったらレンコンの下からもう一個出てきてテンションが上がる。
表面だけ軽く火が通されたホタテは中がレアの状態に仕上がっている。ちょっと、びっくりするぐらい美味しい!
「札幌ラーメン 悠」のホタテはオホーツク直送らしく、身は新鮮そのもの。それを一番美味しい状態でトッピングするなんて!メイントッピングとしては最高じゃない。
ホタテをメイントッピングと書いたけど、実はスープの中からでっかいチャーシューも登場。これまた柔らかくて肉の旨味の閉じ込められた極上チャーシュー!
ついでに言うと、メンマも極太角材メンマ!
スープが美味しいのは大前提だが、これだけトッピングの一つ一つにこだわっているのは中々できることじゃない。仕入れや仕込みにも力を入れているんでしょうね。
悪い噂を吹き飛ばす温かい接客にほっこり
もう一つ書いておきたいのは接客の良さ!隣のカップルが別々のメニューを注文していたのだが、「よろしければお使いください」と言いながら店主さんがそっと、とりわけ用の小皿を提供していた。
二人で仲良く自分のラーメンを取り分けて「そっちも美味しいね」と言っていたカップル。見ているこっちまでほっこりするシーンだった。
ちなみにこの日いただいた「こんぶとほたてのしおラーメン」は950円。このご時世で、これが1,000円以下で食べられるなんてちょっと信じ難い。
海外観光客の方にも一生懸命に英語を交えながら丁寧に接客をされていた。そんな店員さんたちがつくる店内は終始居心地が良い。
元祖ラーメン横丁は「高い・接客が悪い・クオリティが低い」など悪評が立った時期もあったのかもしれない。だけど、少なくともこのお店に関しては「味もサービスも値段も最高!」というのが正直な感想。
こういうお店がある限り、「札幌に行って元祖ラーメン横丁でラーメン食べたのは最高の思い出!」と感じてくれる人がこれからも増え続けると思う。
元祖札幌ラーメン もぐら
一口に札幌味噌ラーメンと言っても色んな流れや系統がある。今でこそ、「純連」「すみれ」などの系譜の「純すみ系」、「信玄系」「白樺山荘系」「吉山商店系」などと呼ばれる、修業元にちなんだカテゴライズがされることが多い。
だが、それらの系譜が生まれるずっと前から札幌ラーメンは存在している。
それこそ、今のような流派や系統の存在しない40年以上前から札幌ラーメンは地元民に愛されて続けてきたのである。それらを、ひとくくりにするのはちょっと乱暴ではあるが、あえて「ノスタルジック系」と呼びたい。
ノスタルジック系ラーメンは残念なことに少しずつその数を減らしている。地元民に愛されながら後継者にバトンが渡せず閉店するお店も少なくない。なんせ歴史だけは頑張っても作ることはできないからね。
そんな札幌でも「元祖ラーメン横丁」や「新ラーメン横丁」には「正統派ノスタルジックラーメン」が存在している。ありがたいことだ!
その中でも個人的に大好きなお店「もぐら」をご紹介したいと思う。
店名 | 元祖札幌ラーメン もぐら |
所在地 | 札幌市中央区南4条西3 新ラーメン横丁 |
アクセス | 地下鉄「すすきの」駅より徒歩約2分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 月・水・木・金:10:30~翌1:00、日:10:30~24:00 |
定休日 | 火曜日、不定休:月曜日 |
席数 | ー |
(店舗情報の引用元:食べログ)
分かる人には分かる。「チャーシューがデカいあの店」
もぐらは新ラーメン横丁に入って入口すぐのところにあるお店。この横丁に足を踏み入れると一番に目に入るお店なので、その存在は知っている人も多いと思う。
食べたことのある方なら「あ、あのチャーシューのデカイお店だ!」とピンとくるのではないだろうか?そう、びっくりするぐらいでっかいチャーシューが記憶に残るお店。
初めて見た人は、上の写真は「チャーシュー麺?」と思うでしょ?違います!
チャーシュー麺だとこうなります。
麺もスープもその他の具材も全部覆い隠すでっかいチャーシューが3枚!わずかにチャーシューの上に染み出たスープの色から、これが「味噌ラーメン」である事がわかるという迫力ある一杯。
確かにチャーシューがデカさが一つの特徴であるが、何もでかいチャーシュー「だけ」のお店ではない。
一口食べると「正統派ノスタルジックラーメン」とはどんなものかがわかってもらえると思う。鶏や豚の動物系素材の旨味、ニンニクの香り、スープに旨味を加えているモヤシやタマネギの風味などなど。札幌ラーメンのオールドファンなら「あー……これこれ!」と誰もが納得する味。
間違いなく「昔からある札幌ラーメンってのはコレ」と言える味わい。
デカさだけでなく美味しさも兼ね備えたしっとり柔らかチャーシュー
そしてこのでかいチャーシュー。ただ大きいだけじゃなく、しっとりして柔らかくてめちゃくちゃ美味しいのである。
豚モモ肉を使ったこのチャーシューの美味しさは昔から変わらず!肉の味がしっかり感じられるこのチャーシューのファンは多いはず。
このスープにさがみ屋製麵のプリップリの黄色い縮れ麺が合わさると……もうね、最高!札幌に生まれて良かった!
新ラーメン横丁が半地下にあり、その昔はもぐら横丁と呼ばれていたこと。そして、そのもぐら横丁の名前から店名がつけられたとプロローグでも紹介した。
創業が新ラーメン横丁のオープンと同時の1976年らしいから、既に40年以上この場所で愛され続けてきたのである。
味噌ラーメンは卓上調味料で楽しみ倍増
ちなみに味噌ラーメンは、もちろんそのまま食べても美味しいのであるが、個人的には卓上調味料でカスタマイズするのが好き。
ニンニクをちょいと加えて、
一味唐辛子をパラリと振りかける。
寒い季節にこういう味噌ラーメンを食べると、つくづく「札幌味噌ラーメンってのは北国の気候風土から生まれた食べ物だよなぁ」と思ってしまう。食べ終えた後には身体が芯から温まるのを感じる。
それと、脇役と思われがちのメンマ。これもお店で丁寧に仕込みされており、シャッキリした歯ごたえを残しながらも主張し過ぎず、かといって物足りなさは全くない。まさに札幌ラーメンの美味しさを盛り上げてくれる名バイプレーヤーなのである。
誰もが納得の美味しいスープと定番の黄色い縮れ麺。そして炒めたモヤシ・タマネギ、メンマとネギ……。大きなチャーシューに目が行きがちだが、実はそのチャーシューをめくった下は「正統派の札幌味噌ラーメン」なのだ。
いや、むしろチャーシュー以外は「あえて何も飾らない伝統的な昔ながらのスタイル」を貫いているようにも思う。40年以上昔から愛されてきた札幌ラーメンの美味しさがここにはある。
実はファンが多い「醤油ラーメン」
ちなみに、味噌ラーメンにスポットが当たりがちだが、実は当たり前のように醤油ラーメンも美味しい!
ノスタルジック系ラーメンとは言え、所謂首都圏で昔から食べられている中華そばのようなあっさりしたものとは一線を画す、パンチの効いた醤油ラーメン。地元ファンには「もぐらは醤油が美味しい」と言う人も多い、と聞いたことがあるが、それも納得なのである。
味噌ラーメンが誕生する前は、札幌も醤油ラーメンが主流だった。当時の醤油ラーメンにはモヤシが使われていなかったことを考えると、味噌ラーメン誕生以降の札幌醤油ラーメンと言うことになるが、それでも「昔ながらの札幌スタイルの醤油ラーメン」と言って間違いないだろう。
特徴的なチャーシューは実はあのお店から受け継いだもの
さて、この大きなチャーシューであるが、もぐら創業者の奥様の兄である「味の時計台」の創業者から受け継いだものらしいです。
特大チャーシューは作成にスペースを取るため、味の時計台が規模を拡大する際、普通のチャーシューに変更されたが、その技術と味をもぐらが受け継いだと伺った。
ちなみに、最近では1,000円を越えるラーメンも珍しくなくなってきているのはご存じの通り。ここもぐらでは2024年2月時点でも1,000円でおつりが来る950円で提供されている。この大きなチャーシューが3枚乗ったチャーシュー麺でも1,300円。今ではむしろ良心的な価格だと思う。
ラーメン横丁は「高いしクオリティが低い」という偏見を持っている人。ホントにそうかな?このチャーシューでこの価格、しかも正統派ノスタルジックラーメンが食べられる!もぐらだけに「穴場」なんじゃないかとむしろ思ってしまう。
いやここは、地元でここのラーメンを食べたことがない人は「もぐり?」というフレーズで締めくくるべきかな?
ふじ屋 NOODLE
最後にご紹介するのは、新ラーメン横丁の人気店「ふじ屋 NOODLE」!
正直言えばここは紹介したいメニューやお伝えしたい事もてんこ盛りなんだけど、今回は後半にある商品を中心にご紹介したいと思っているので前段は駆け足で!
店名 | ふじ屋 NOODLE |
所在地 | 札幌市中央区南4条西3 第3グリーンビル 1F 新ラーメン横丁 |
アクセス | 地下鉄「すすきの」駅より徒歩約2分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 火~木 18:00~00:00、金・土 18:00~翌2:30 |
定休日 | 日・月曜日 |
席数 | 8席(カウンター席のみ) |
(店舗情報の引用元:食べログ)
個性的なメニューの数々はどれもハズレなし!
まず、このお店では何を食べても「ハズレは無い」と自信を持って言えます。
それぞれ個性的なメニューが並び、どれを食べても「すごいっ!」と思っていただけると思う。そして、麺とスープだけじゃなく、一つ一つの具材のこだわりもハンパない!
これまでチャーシューは私が食べた限りでも、低温調理、焼豚、煮豚の3種類があった。
本来は一期一会のチャーシューだったはずが……今回!上記案内の通り2/22~3月初旬の期間限定で、本店創業当初の“煮豚”の「チャーシュー(中厚切り)」が使われることになった。
具材の細部にいたるまで「ラーメン全部を楽しんで欲しい」という思いにあふれているように感じられる。
社長の藤谷氏は「味噌ソムリエ」の資格を持っている。だから味噌に対する知識もこだわりもハンパない!
なので、ここの味噌ラーメンは「スープの美味しさ+味噌の美味しさの相乗効果」ってヤツを感じてもらえると思う。
先に紹介した「もぐら」の味噌ラーメンが「昔ながらの札幌味噌ラーメン」だとすると、隣接する「ふじ屋NOODLE」のそれは「味わったことの無い新しい札幌味噌ラーメン」。
新しい味噌ラーメンと書いたが、昔ながらの札幌味噌ラーメンを食べ慣れた地元民からも絶大な人気を誇る。そういう意味では、札幌味噌ラーメンに新しい風を吹き込んだと言ってもいいかもしれない。
期間限定で登場した「釜揚げ式 背脂つけ麺」
さて、そんな「ふじ屋NOODLE」!どうしても今回ご紹介したいメニューがあるんだよね。「釜揚げ式」と命名された、オリジナルの温かいつけ麺だ。
実はこの「釜揚げ式」は、系列の「札幌Fuji屋」では2年半も前から様々なバリエーションメニューを提供していた。
- 釜揚げ式 カレーつけ麺
- 釜揚げ式 セアブラック
- 釜揚げ式 背脂塩つけ麺
- 釜揚げ式 煮干しつけ麺 など
「つけ麺」ってどういうものか知ってる?
「釜揚げ式」って何?という説明するその前に。まずは「つけ麺」の話を書いておこうかな。
つけ麺は今でこそ札幌でも市民権を得てきている。が、それでもまだ未食の方も多いかもしれない。つけ麺は基本的には冷たく水で〆られた麺を温かいつけダレにつけていただくラーメンの一種。麺の美味しさがラーメンより味わえるという魅力があり札幌でもファンが増えている。
ただ、つけ麺にはちょっと欠点もある。食べ進むうちにスープがぬるくなってしまうという点だ。
加えて北国の気候風土では「つめたい麺より温かいものが好まれる」という傾向もあり、冬の北海道ではつけ麺人気が今一つという印象もある。
実はこれを回避するためのメニューとして「熱盛(あつもり)」という、麺を一度温め直すという食べ方もある。ところが「熱盛」は食べ進むうちに麺同士がくっついてしまうというまた新しい欠点が登場する。
それら両方の欠点を補うために「麺を温かい湯に入れればいいんじゃね?」という発想をするのは自然の流れかもしれない。
「釜揚げ」と「湯だめ」の違いについて解説
次に、うどんの提供方法である「釜揚げ」と「湯だめ」いうものについても触れておこう。
「釜揚げ(うどん)」は讃岐うどんでは一般的なメニュー。ゆで汁と一緒に麺を器に入れ、温かい麺で食べるうどんのつけ麺版である。
この場合、重要なのは「茹でた麺をそのまま”ゆで汁”と一緒に提供する」という点。こちらは丸亀製麺などで食べたことのある人も多いのではないだろうか?
もうひとつ、似たメニューで「湯だめ(うどん)」というものを提供するうどん店もある。こちらは一度水で締めた麺を温かいお湯に入れる。「一度締める」というのが特徴で、ゆで汁ではなく新たにお湯を張ったドンブリに入れるお店が多い。
これが「ふじ屋NOODLE」の釜揚げ“式”だ!
さて、つけ麺と釜揚げについて説明したところで、話を「ふじ屋NOODLE」の「釜揚げ式」に戻そう!
ここで提供されている「釜揚げ式」、「釜揚げ」のように「ゆで汁」は使わない。茹でた麺を「新たに出し汁の入ったドンブリに入れる」ところが大きな特徴!
まずはつけダレにはつけずに、どんぶりから麺をそのまま啜ると……なにこれ!これだけでめちゃめちゃ美味しい!
出汁をまとうことで、麺の小麦の美味しさがさらに倍増した感じ!これ以上塩味が強いと「ラーメン」になってしまうし、単なるお湯だと麺のポテンシャルがここまで引き出されないだろう。
ゆで汁ごとドンブリに入れる「釜揚げ」ではなく、新たに出汁を張ったドンブリに麺を入れるというこの手法は、うどんのそれとは一線を引くために「釜揚げ”式”」と命名したのだろう。
背脂×天かす×出汁の三重奏つけダレ
そしてこのつけダレ!!背脂の甘さに天かすも加わるコク。ふじ屋NOODLEならではの出汁感。
ここに先ほどのドンブリから麺を引き出してつけダレにドボンと入れる、とそりゃもう至福ですよ!
そして、つけ麺の欠点である「後半ぬるくなる」ということもない。最後までスープが冷めることなく一口目と同じ美味しさが持続する。
勝手に「なんとなくこんな味だろう」という想像をしていたのだが、想像のはるか上の美味しさだった。「頭の中で想像したものと実際の体験(味わい)は違う」ってことを今更ながら痛感しました。
卓上調味料やトッピングで味わいの変化も自由自在
卓上調味料で味の変化を楽しむのもイイと思う。
さて、この「釜揚げ式」。既に「札幌Fuji屋」ではいくつものバリエーションを提供していると書いたが、確かに様々なバリエーションが考えられそうである。
麺が入るドンブリ側の出汁のバリエーションやアクセントで当然味わいは変わるだろう。ラーメンのようにあらかじめ濃い味のスープに入っているのとは違い、麺の美味しさも今まで以上に楽しめるかもしれない。
そして当然ながらつけダレのバリエーションも無限大。これらを組み合わせていくことで様々なメニューが考えられそうだ。
裏を返すと「それぞれのお店の個性が出しやすい」ジャンルとも言える気がする。
余談だが、先日に「中華そばうさぎ」と「麺やhide」のコラボメニューに「釜揚げ」というメニューも限定提供されていた。
麺の美味しさや中華そばうさぎらしい鰹の風味を活かした麺ドンブリのスープ。朝ラーメンで人気の同店らしく、海苔の風味や卵の味わいで演出された「朝らしさ」などなど。まさにお店の個性が出た美味しい釜揚げだった。
辛化オイル。麺にいれる?つけダレにいれる?
オプションで注文した「辛化オイル」という辛味ダレ。麺側に入れるかタレ側に入れるかちょっと悩んだけど、逆に考えると「アクセントさえも麺側・タレ側でバリエーションが考えられる」と言えるかもしれない。
麺側の残りのスープも「割スープ」としてつけダレに入れることで最後の最後まで美味しくいただけた。
これも麺ドンブリのスープが最後までアツアツだからこそ出来る楽しみ方だと思う。
釜揚げ式背脂つけ麺。食べたいなら急いでお店へGO!
さて、ここまで読んだら「食べたい」と思う人も少なくないと思う。
実はこのメニュー、申し訳ないがこのPOPの通り提供は3月中旬まで……
だったのですが!あまりの人気に「3月30日まで延長」して提供される予定とのこと!
そして、この寒い北海道の気候風土、バリエーションでお店の個性の出しやすさなどを考えると、この「釜揚げ“式”」という、温かいつけ麺は札幌で新しいジャンルとして確立しそうな予感がしてならない。
「ふじ屋NOODLE」や「札幌Fuji屋」だけじゃなく、既にいくつかのお店では同様のスタイルのメニューを限定提供しているところもある。この先、色々なお店でこのジャンルが増えてきそうな予感がする。そしてそれを楽しみにしている自分がいる。
もしこの「釜揚げ式 背脂つけ麺」の提供期間が終わってしまって食べられなかったという方。冒頭に書いた通りこのメニュー以外も「ふじ屋NOODLE」は何を食べても間違いなく美味しいお店なのでご安心ください!
さいごに
長らく札幌ラーメンを愛してきた一ファンの言葉として聞いてほしいことがあります。
ラーメン横丁の評判が悪い時期に、東京在住時にラーメン好きの仲間から「札幌ラーメンが美味しいって言われていた時もあったよね」と過去形のように語られ悔しい思いをした時期があった。
ラーメン横丁には確かにそういう時期があったのだと思います。
けれども、国内のみならず海外からも高い評価を得て再び「札幌はラーメンが美味しい街」と呼ばれるようになった。その背景の一つに、ラーメン横丁やそこで営業する各店の努力があったのも事実。
それだけ影響力があるのが「ラーメン横丁」なのだと思います。
さっぽろ雪まつりのシーズンが終わってもなお、国内外の多くの観光客でにぎわう元祖ラーメン横丁を見てそう思わずにはいられませんでした。
地元民の中にはいまだに昔の評判を鵜呑みにして、実際に確かめず評する人が多いと感じています。今こそ地元の人には自ら正しい評価をして欲しい。