前回は札幌ラーメンのド定番として「純すみ系」と「信玄系」のお話をしました。
「系」ってぐらいだから、そのDNAを受け継ぐお店があるんだよね?それはどこ?と知りたくなったと思います。
ということで、第三回となる今回からは、純すみ系と信玄系のいくつかのお店を具体的に紹介していきます。
穴場店といえそうな、札幌ラーメン最新事情らしいお店をピックアップしてみました。
※2023年3月15日 事情により紹介店舗を一部変更しております。
純すみ系に「穴場」無し?
タイトルに「穴場店」と書きましたが……「純すみ系に穴場無し」ということわざは、ラーメン好きの間では有名ですよね?
冗談はさておいても「純すみ系の穴場を紹介して」と言われても実は結構困るというのは本当。
というのも、ほぼ全て「人気店」なんですから。
それでもあえて「このお店のこの情報知っている?」という内容や、まだ知名度が浸透していないお店を穴場と称してご紹介してみたいと思います。
前回までのおさらい!札幌ラーメンに共通する調理法
さて、札幌ラーメンの調理に関して改めて説明しておきましょうか。
札幌ラーメンの“大石流”定義を紹介している回はこちら
中華鍋に野菜やニンニクを入れて調理をするわけですが、これが簡単に見えてとても難しい。
全く同じ材料を使っても火加減や火当ての時間によって味も香りも全然変わってしまうから不思議です。
また、札幌ラーメンの場合は味噌ダレに関しても、中華鍋で熱して香ばしさを引き出してからスープを注ぐ調理方法をとるお店も少なくありません(もちろん味噌に火を入れない手法もある)。
その味噌ダレの炒め時間や火加減によっても風味や色味が全然違ってきます。
こういった調理工程の差がお店の個性にもつながっています。
もちろん、この現象は札幌ラーメンに限らず全てのジャンルのラーメンで起きるわけで、
「あのお店は昼の店主さんの時はいいんだけど、夜営業のスタッフさんはイマイチの時があるよね」
なんて噂がまことしやかに流れたり。
ですが、札幌ラーメンの調理においてはその違いがさらに大きくなるように思っています。
さて、それを踏まえた上で一つ目に紹介するお店「雪月花」のお話に移りましょう。
麺屋 雪月花
実は本記事を書くにあたり、直近で2023年1月に訪問しました。
「うん!美味しい^^写真も撮影し終えたし、これで記事を書こう」と思っていたら……
その直後の1月末に調理工程を大幅に見直し、味も大きく変わったとの情報が入ってきた。
店名 | 麺屋 雪月花(めんや せつげっか) |
所在地 | 札幌市北区新琴似3条2-13-21 |
アクセス | 地下鉄南北線「麻生」駅、JR「新川」駅から車で5分 |
駐車場 | あり(店周辺5台) |
営業時間 | 11:00~20:00(L.O.) 日曜営業 |
定休日 | 月曜日、不定休 |
席数 | 15席(カウンター15席) |
(店舗情報の引用元:食べログ)
調理工程の見直しを経たラーメンはいい意味でまったくの別物
材料そのものは大きく変わっていないとのことなので、これが札幌ラーメンのジャンルじゃなければ「まぁ、1月訪問の写真と感想でいいかな」となったかも知れない。
が、冒頭の「工程によって大きく味が変わること」を知っているから、訪問せざるを得ないよね~。
ということで、2月に入って再び訪問。
結論を言うと「すっきり感が増して味噌の風味が生きている全然別物」になっているから驚いたね。
ブラッシュアップ前後のラーメンを比較してみる
ブラッシュアップのきっかけは「味噌の風味と旨味をもっと生かしたいから」とのこと。
店主さんは純連での修行経験のある方。従来のラーメンは純連の作り方と手順を踏襲していたものと思われる。
それを、味噌の焼き付け時間を短くしたり、モヤシの炒め方など、工程一つ一つを見直したそう。
パンチがある味わいは変わらずに純すみ系のそれ!相変わらずのインパクトだが、油の量に比較して口当たりはたしかにすっきりとなっている。
モヤシの比較
従来は「炒める」というより「煮る」ような手順で長めに調理をしていたモヤシ。
これによりモヤシにはスープの味がしみ込み、スープにはモヤシの旨味が加わるというメリットがあるのであるが、この工程も見直した様子。
ブラッシュアップされた味噌ラーメンは、モヤシの食感もシャキシャキと楽しいものに変わっていた。
モヤシの旨味はスープに出ていないがその分味噌本来の旨味が引き立っているように思う。
スープの比較
全体的に「すっきり」。口当たりがよくなり、味噌の香りが強く感じられるようになった印象。
麺と一緒にシャキシャキのモヤシをほおばると至福なのである。
生姜をスープに溶かしながらいただくスタイルは、純すみ系ではよく見られる「味変」。
この食べ進むうちに表情が変わるのもいいんだよね!
ニラ辛味噌やつけ麺などオリジナルのラーメンも見逃せない
ちなみに、ニラ辛味噌ラーメンやニラ辛醤油ラーメン、あるいはつけ麺なんていうこの店オリジナルのラーメンもそろっている。
こちらは「ニラ辛醤油ラーメン」。
濃い味わいの醤油にニラの強いアクセントが負けていない。
続いて、こちらはつけ麺。純すみ系でつけ麺を提供しているお店は珍しい。
純連で働いた経験を活かし、その味をベースにオリジナルの味作りにも取り組んでいる雪月花。
穴場というには既に人気店だが、色々とチャレンジが感じられる純すみ系としてご紹介しました。
ラーメンのお供にチャーハンも外せない
蛇足的になってしまうが、チャーハンには半チャーハンってのがあってこれまた美味しい。コスパが高いしラーメンのお供に最高!
ブラッシュアップされた味噌ラーメンがイチオシではあるが、他のメニューにも注目なお店。
まずは味噌ラーメンを食べて欲しいところであるが、他の味もやっぱり食べて欲しいかな。
らー麺ふしみ
続いてご紹介するのは「らー麺ふしみ」。
いやいや、全然穴場なんかじゃないじゃん!人気店じゃないか!
そんな声が聞こえてきそうですが、最初に書いた通り「純すみ系に穴場無し」なのです。
でも、このお店を選んだ理由の一つは「ラーメンに2つのラインナップがあって人気を二分しているから」ということが挙げられます。
店名 | らー麺ふしみ |
所在地 | 札幌市中央区南15条西18-3-15 |
アクセス | 市電「西線16条」駅から530m |
駐車場 | あり(店舗前に8台ほど) |
営業時間 | [月・水・木・金]11:00~15:30、17:00~21:00(なくなり次第終了) [土・日・祝]11:00~21:00(なくなり次第終了) 日曜営業 |
定休日 | 火曜日(祝日の場合は営業) |
席数 | 35席(カウンター19席) |
(店舗情報の引用元:食べログ)
一つのラーメン店に二つのラインナップ
一つは「ふしみ(オリジナル)パイタンスープ」、もう一つは「すみれ風清湯スープ」。
そう、意外と知らない方もいらっしゃるようなのですが、ふしみでは「すみれ風」ラーメンというメニューがあるのです。
そして、すみれ「風」と書かれていますが、これがなかなかどうして「本格的な純すみ系」ラーメンである事を知らない人が多いようなのです。
この「すみれ風」というメニューは2011年にふしみがリニューアルした際に登場したメニュー。最初はオリジナルのパイタンスープのみだった。
今でこそ、すみれは「公認店」という制度もあり、最近では小樽のみかん、富山のつくし、千歳のIoriなどが認定を受けている。
だが、リニューアルした2011年は2番目の公認店八乃木のオープンが2016年だから、その当時の公認店は「彩未」だけだったと記憶している。
ということで、ここから先は「こうだったら面白いな」という私個人の「妄想」です(笑)
「すみれ風」をめぐる、ふしみ店主とすみれの村中社長に思いを馳せてみる
ここからは少しだけ私の思い出話と妄想にお付き合いください。
私、大石の高校時代の同級生にS君というメガネをかけた真面目な生徒がいた(本当に何の話よ)。
高校に入学して最初の席替えの時、S君は「自分は後ろだと黒板の文字が見えないので前でいいですか?」と申し出た。
それ以降、席替えがあってもS君の席は教壇の真ん前、残りの生徒の席だけがくじ引きで決めることになった。
ある時、S君にふと聞いてみた。「やっぱり後ろは見えないの?」
S君「いや、実は後ろでも見える。せっかくだから前の席で授業を受けたいだけ」とこっそり教えてくれたことがある。
大人になってから元教員の父に「高校時代に目が悪いからと席替えでも毎回教壇の真ん前に座る友人がいた」と話した。
すると、父は「そういうやる気のある生徒は必然的に教える側も熱が入る。平等に教えているつもりであるが、どうしてもそういう生徒には濃い内容を伝えようとしていたかも知れない」と言ったのだった。
妄想、終わり(笑)
「すみれ」の名を使うことがご法度だった当時に生まれた「すみれ風」
つまり何が言いたいのかというと、先に書いた通りふしみがリニューアルした2011年当時は正式な「公認店制度」が無かった時代。
ふしみが「すみれ風メニューを出したい!」と村中伸宜社長に相談した当時は、もしかするとご法度だったかも知れないし逆風があったかも知れない。
それでも、いざそれに取り組むことになった時の二人の関係は「教壇の真ん前に座る熱心な生徒(ふしみ店主)」と「教える側にも熱が入った教師(すみれの村中社長)」の関係だったのではないかと勝手に思うのである。
「すみれ」の名を使う事が当時はほぼご法度だった事を考えると、そんな熱い生徒と先生の関係があったのではないか……いや、あくまでそうだったら面白いなと思ったわけです!
あとは皆さんの舌に委ねましょう!
メニュー名は控えめに「すみれ風」ではあるが、間違いなくすみれの濃いDNAを受け継いだラーメンが食べられるお店です。
ふしみ(オリジナル)パイタンラーメンも美味しいけど、ぜひ一度「すみれ風」メニューを食べてみて欲しいと思うのでした。
IOrI(いおり)
この記事は「札幌ラーメン最新事情」というタイトルが付いた連載ということもあり、「札幌」の情報を中心に書いてきた。
ということで、今年は「札幌」縛りでなくて良いのをいいことに、折角なのでちょっと札幌近郊のお店をご紹介しようと思う。
札幌から車で50分ほどの千歳にある名店「IOrI(いおり)」だ。
ioriやIORI、Ioriと表記されることもあるが、看板のロゴは「r」だけが小文字のかっこいいロゴである。
店名 | IOrI(いおり) |
所在地 | 千歳市住吉1-12-2 |
アクセス | JR「千歳」駅から1074m |
駐車場 | あり(店舗前後 奥18台) |
営業時間 | 11:00~14:30(L.O.)、17:00~19:30(L.O.) 日曜営業 |
定休日 | なし |
席数 | 18席(カウンター6席) |
(店舗情報の引用元:食べログ)
北海道外から来た人におすすめしたい、千歳で味わう札幌ラーメン
こちらのお店は正式な「すみれ公認店」。
もちろん人気店であるが、実は道外の旅行者、いや札幌の人でもその事を知らない人が多いというのが意外な事実である。
私は東京に長く住んでいた事もあり道外の友人も多い。
で、当然のように良く聞かれるのは「札幌に行ったら美味しいラーメンが食べたい!お店教えて」という質問である。
そんな時に聞き返す質問は「何ラーメンが食べたい」ではなく「移動は電車?レンタカー?」だったりする。
なぜか?
電車なら仕方がないが、「レンタカー」と答える人には「札幌に向かう前に千歳でまず一杯食べて!」とこの店の存在を教えたいからだ。
そう、このお店「IOrI」でまずは札幌ラーメンのすごさを先制パンチとして食らわせてやりたいのである。
正しくすみれのDNAを受け継いだ「The・札幌ラーメン」という一杯が新千歳空港で飛行機を降りて、わずか数十分で食べられるのである。
純すみ系だけど自家製麺
そしてこのお店、独自の進化も遂げている。
なんと「自家製麺」なのだ!
ちょっと詳しい人なら「え?純すみ系なのに自家製麺?」ってなると思う。
純すみ系の麺に関して補足しておくと、現在、純連では「森住製麺」
一方、純連やすみれで修業した方のお店がどこの麺を使うかは各店
先に登場した雪月花とふしみでは「森住製麺」を使用しているが、
各店それぞれお気に入りの製麺所を使う事が多いが、「自家製麺」
この札幌麺独特の縮れとハリや弾力を自家製麺で表現するのは難し
恐らく、この麺に仕上げるには店主さんの相当のご苦労があったも
味噌や醤油に使われているぷりっぷりの縮れ麺。そして昔風ラーメンに使われている細めのストレート麺。
これが全部素晴らしいのだ。
東京から来た友人君。新千歳空港でレンタカーを借りて真っ先にIOrIへと向かったらしい。
夜に合流した直後にこう言ったね!
「札幌に到着する前に札幌を味わった!メチャ美味かった!!」
寡黙な店主がつくる誠実なラーメン
寡黙な店主はずーーっとラーメンと真摯に向き合ってきたのだと思う。
香ばしくシャキシャキ食感がたまらないモヤシ
先の自家製麺がそれであり、シャキシャキ感を残したモヤシの火当てをほどこす「あおり調理」もそうかも知れない。
染み込んだすみれのDNAに独自のエッセンスを取り入れて作られたラーメンは、どれもこれも驚くほどに高いクオリティ。
いい加減な向き合い方をしてきた人が作れるようなラーメンじゃない事は一口でわかる。
すみれを感じる細めのメンマ
今は違うと思うのだが、昔のすみれで修業されたある方が言っていた。「朝出勤して最初にやるのはメンマを細く割く事」と。
実際すみれのメンマは細くて麺の食感を邪魔しない配慮がなされた独特の食感。
今はメンマの種類も豊富だからわざわざ手で割いたりしていないだろうが、他の一般的なラーメン店よりやや細めのメンマを使っているあたりも、随所に染み込むすみれのDNAなのかも知れない。
それは食べてみれば感じてもらえるだろう。
定番の味噌以外のメニューもおすすめ
ちなみに、この店では「味噌」だけじゃなく「醤油」も「昔風」も食べてもらいたい。
もっと言うと全部食べてもらいたい!
さらに言うなら実はご飯も美味しい^^
え?結局どれを食べればいいの?だって?
選択肢は3つ!
- 数人で行って他の味も味見する
- 一人で複数回通う
- 一回の来店で頑張って全部食べる
いや、さすがに一人で行くのに③を選んで一度に全部食べるのはフードファイターじゃないと無理だよね。
でも味噌・辛味噌・醤油・塩・昔風醤油・昔風塩の6種類は食べてほしいので、ラーメンコンシェルジュらしく提案しましょう!
結論:2杯ずつ3回通うのがイイと思います!あ、ライスもつけてね!
札幌で生まれた名店すみれの味を継承し、千歳でオリジナルエッセンスも取り入れながら根付いたお店。
千歳の地元の人には「当然知っているお店」で穴場というにはあまりにも有名店。
だけど、札幌市民はもちろん、もっと道外の方にも知ってもらいたいお店の一つである。
さいごに
今回は前回の続きとして、具体的に「純すみ系の穴場店(?)」をご紹介しました。
このペースで進めて行ったら、「トレンド系ラーメン」や「札幌ラーメンの歴史編」には、一体いつになったらたどり着けるやら。
札幌ラーメンとトレンドラーメンのお話はこちら
次回は、今回書ききれなかった信玄系のお店をご紹介します。
が、もしかしたら違う内容を先に書いちゃうかも知れません。あれもこれも、紹介したい事は沢山ありますので。
さて、まだまだ札幌ラーメンの入り口に来たばかり。ゆっくり少しずつ掘り下げていきたいと思いますので、次回もお付き合いください。
あ、いろはかるたには既に採用されているのはご存じの通りですよね(大ウソ)