冷やし中華じゃなくて冷やしラーメン!?|札幌ラーメン最新事情2023 第7回①

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暑い日が多くなってきましたね。年を追うごとに北海道も暑くなっているように思うのは地球温暖化の影響でしょうか?

大石さん
それとも単に年々太りつつある私の身体が暑さ耐性に弱くなっているだけなのか?

さて、ということで、夏にぴったりの冷たいラーメンのご紹介をしたいと思います。

ですが、そのためにはまず「札幌では冷やし中華を冷やしラーメンと呼ぶ」問題を紐解いておかなくちゃならないでしょう。

札幌における冷やしラーメン(冷やし中華)のイメージ

そう!ここ札幌では、ある一定数以上の方が冷やし中華を冷やしラーメンと呼びますし、そう認識しているのです。今回はその辺のお話から入りましょうか。

とはいえ、札幌における冷やしラーメン(冷やし中華)の歴史に関しては、ほとんど資料が見当たらないので私の推測がかなり入っています!

大石さん
もしかしたら間違った記述があるかも知れませんが、その辺もご理解いただいて読んでいただければと思います

日本の「冷やし中華」の歴史

まず日本における冷やし中華の元祖となるお店についてさらっと触れたいと思います。

ここも実は掘り下げると論争になりそうなので「諸説あるが以下の2店が発祥店とされることが多い」という表現にとどめておきます。

「冷やし中華」の元祖と呼ばれている二つのお店

冷やし中華発祥の店と言われている2店

一つは東京の神保町にある「揚子江菜館」の五色涼拌麺を元祖とする説。もう一つは仙台の「龍亭」の涼拌麺が元祖とする説。

いずれにしても昭和の初期に冷やし中華の元祖となるものが誕生し、仙台地区や首都圏で広がっていったものと思われます。

札幌に「冷やし中華」が登場したのはいつ?

さて、舞台を札幌に変えましょう。

「味の三平」が今の札幌ラーメンの原型と呼べる味噌ラーメンを発明したのが昭和30年代なので、それより随分前の話。

味噌ラーメン誕生以前も、屋台でラーメン人気があったとはいえ、それでも終戦直後の昭和20年代の頃なので、おそらくその頃は札幌で冷やし中華(冷やしラーメン)を提供しているお店は無かったと思われます。

大石さん
それに当時の札幌は今ほど夏が暑くなかっただろうから、需要も無かったのかも知れないですね

想像でしかないですが、冷やしラーメンが札幌で登場するのは昭和30年~40年頃じゃないでしょうか?

昭和30年代頃にラーメンを提供していた店と呼び名について

当時の東京と札幌で、一般市民がラーメンを食べていた場所と名前に関して触れてみたいと思います。

東京ではラーメン専門店もあったものの、いたる所に「大衆中華」「町中華」なるものが存在し、そこでもラーメンを食べる機会が多かったと思われます。

またラーメンの事を「中華そば」と呼ぶ事も多く、「中華」という言葉そのものが身近なものだったのでしょう。

つめたく冷やしたラーメンの麺を使った料理を「冷やし中華」と呼ぶ事に違和感はなかったことでしょう。

札幌で「冷やし中華」の名前が浸透しなかった理由は?

ところが、ここ札幌ではラーメンを食べるのは圧倒的に「ラーメン店で食べる機会が多かった」と思われます。

東京で言うところの町中華の役割は札幌では「食堂」が担っており、中華という言葉自体が登場する機会が少なかったと思われます。

大石さん
もちろん老舗中華料理店もありますし、数こそ多くないですが町中華にあたるお店もありましたが、ラーメン店の数に比較するとその差は歴然だったはず

細切りの具や甘酸っぱい醤油の味付けから、おそらく「冷やし中華の味」そのものは首都圏から伝わってきたのでしょう。

ですが、その名前を付ける時に
「東京じゃあ冷やし”中華”って言ってたけど、冷やしているのはラーメンの麺だべや!」
「じゃあ冷やしラーメンでいいべ」

という会話がなされたと思う。

大石さん
こういうふざけた書き方をすると信ぴょう性が薄れるね(笑)まぁ雰囲気を感じ取ってください^^;

ラーメン店だけでなく、おそらくは食堂でも「冷やし中華」という言葉よりも「冷やしラーメン」がしっくりと来たのでしょう。

かくして夏になると札幌市内のラーメン店や食堂では、ラーメンの麺をつめたく冷やした「冷やしラーメン」が人気となっていったのだと思われます。

「冷やしラーメン」が一般市民に浸透するきっかけ

ラーメン店や食堂が「冷やしラーメン」というメニューを提供するだけでは、一般市民への広がりはなかったことでしょう。

一般市民へその名称が浸透した背景には道内の大手食品メーカーの力があったことも忘れてはならないと思います。

北海道民にはおなじみ!スーパーで買える「冷やしラーメン」

スーパーの冷やしラーメン関連商品の陳列棚

▲つい先日、札幌市内スーパーマーケットで陳列されている商品の一部を撮影

菊水、ベル食品、西山ラーメンなど北海道を代表する食品メーカーが「冷やしラーメン」と銘打った商品を販売しています。

こうして、ラーメン店に足を運ばない人や食堂で外食をしない層の人にも「冷やしラーメン」という名称と甘酸っぱい醤油味のタレが浸透したのだと思われます。

ミツカンより発売している冷やし中華のタレ

▲ミツカンより発売している冷やし中華のタレ

全国区の食品メーカーのミツカンは「冷やし中華」の名称でタレを販売していました。

札幌市民が「冷やし中華=冷やしラーメンのこと」と関連付けられるようになったのは、この商品の影響も少なからずあったのではないかと勝手に想像しています。

蛇足ですが20年ほど前、まだ私が東京在住時の夏。お盆に札幌に帰省した際、母に「暑いから冷やし中華を食べたいな」と言ったところ、

「冷やし中華って?・・・冷たい麻婆豆腐とか冷たい餃子の事?」

と真顔で言われたことがある。

全道各地でも市民権を得ている「冷やしラーメン」

冷やしラーメンの名称は札幌に限らず、全道各地のラーメン店や食堂のメニューとして載っています。

大石さん
冷やしラーメンの詳しい情報が無いので確かな事は言えませんが、もし道民で「私の地区では〇〇と呼んでいます」という情報があれば教えて欲しいところです
札幌市以外の道内各地でも冷やしラーメンを提供している

▲道内各地で提供されている冷やしラーメン

私の知る限りでは「全道どこでも冷やしラーメンで通用する」と思っています。

これも北海道を代表するタレメーカーや麺メーカーが「冷やしラーメン」という名称の商品を発売したことが大きいと思われます。

冷やしラーメンという名前の商品が全道各地のスーパーに広がったことで、その名称が一般的になったのではないでしょうか。

山形発祥の「冷しラーメン」

さて、実は山形のご当地ラーメンに「冷しラーメン」というものが存在します。発祥は「栄屋本店」というお店で、生まれたのは昭和27年と聞いています。

同店のHPによると、

山形名物「冷しらーめん」は、お客さんの「夏には冷たい蕎麦を食べるんだから」、ラーメンも冷たいのが食べてみたい」の一言にヒントを得て生まれました。
(引用:栄屋本店公式サイト

とのこと。

栄屋本店の冷やしラーメン

▲栄屋本店の冷しラーメン

山形市は盆地にあり、夏はとても暑いらしい。栄屋本店のキンキンに冷えたスープと冷たい麺で出来た「冷しラーメン」が地元民の間で評判となったのも頷けます。

そして、山形県のご当地グルメとして各店に広がったのも容易に想像ができます。

大石さん
ちなみに同時期に福島県や新潟県などでも冷しラーメンが登場しますが、今回は諸説ある中の山形県の栄屋本店だけの紹介に留めておきます

「冷やしラーメン」の東京への広がり

夏が暑いのは山形県だけのことではなく、当然首都圏東京でも夏は暑いのは当たり前。

情報が発達する中で「山形の冷やしラーメンが美味しい」という話を耳にするラーメン店の店主さん達も多かったことでしょう。

夏はどうしても暑いラーメンの売り上げが落ちる中、色々なお店がそれを参考にしてオリジナルの冷たいラーメンの提供を始めたのは2000年頃からだと思います。

現在は多くのお店で冷たいスープと麺のラーメンを提供していますね。

そして、この時のネーミングは・・・
「山形では冷やしラーメンだから冷やしラーメンで良くね?」
「冷やし中華はあるけど冷やしラーメンの席は空いているからそれでいいじゃん」

という話がされたと思われる。

大石さん
雰囲気を感じてください(笑)

でもネーミングを決める際に「汁の無い(少ない)のが冷やし中華で、スープたっぷりなのが冷やしラーメン」と自然と分類された気がします。

もちろんお店によってネーミングはまちまちですが、東京では「冷やしラーメン」と言えば、冷たくてスープたっぷりのラーメンが一般的になったのだと思います。

汁たっぷり「冷やしラーメン」の北海道上陸

さて話を北海道に戻しましょう。インターネットを介して簡単に情報が手に入る時代。そして昔に比較して北海道~東京は気軽に行き来ができる時代。

それに加えて「新しい味にチャレンジしたい意欲的な店主さんの多い札幌」。

ここまで条件が揃えば、札幌でもスープがたっぷりの冷たいラーメンが生まれてくるのは必然と言えますよね。

札幌でも夏になると様々な冷たい麺が登場し、中には山形発祥の「冷やしラーメンにインスピレーションを得た」というメニューも生まれてきます。

さて、ここで大きな問題が発生します。

そう!「冷やしラーメンの椅子が空いていない」という問題です。

北海道で「冷やしラーメン」と名乗れない「冷やし中華」

すでに北海道に誕生していた「冷やしラーメン」

なんせ北海道では「冷やしラーメン」は重鎮中の重鎮さん。たとえ北海道で冷やしラーメンが登場し認知されたのが昭和30年~40年ごろで、山形の冷やしラーメンが昭和27年と歴史が古くても関係ない!

もはや「冷しラーメン(冷やし中華)」が市民権を獲得しちゃっているわけですから。

すでに北海道に誕生していた「冷麺」

かと言って、「冷麺」という名前も既にあるわけです。夏になると冷たいメニューを開発する意欲的な店主さん達。

もしかすると、味作りと同じぐらいネーミングに苦労をされているのかも知れませんね。

麺や貴一の冷たい麺メニュー

▲麺や貴一の冷たい麺メニュー

首都圏で提供するなら迷うことなく「冷やしラーメン○○」や「△△冷やしラーメン」というネーミングで提供できたかも知れないというラーメンがいくつもあります。

麺屋 漣華の冷たい麺メニュー

▲麺屋 漣華の冷たい麺メニュー

北海道ならではの面白い事象ではありますが、店主さんたちにとっては頭の痛いネタなのかも知れませんね。

次回は冷たい麺を提供する注目店をご紹介します

ということで、プロローグがずいぶん長くなってしまいました。

札幌(北海道)における「冷やしラーメン=冷やし中華」問題を私なりに紐解いたところで、次回はお店をいくつか紹介したいと思います。

話の流れに沿って「冷やしラーメン(冷やし中華)」を提供している2店と「本当は冷やしラーメンを名乗りたかった(かも知れない)」の中で注目店を2店ご紹介したいと思います。

WRITER/大石 敬(札幌ラーメンコンシェルジュ)

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